14 絶対絶命
わたしの名前はリン。
原初の大森林に住むゴブリン・ハーフだ。
今は12才で、もう少しで一人前として認められる年になる。
A級スキル<忍び足>も上手く扱えるし、森の中を一人で歩くのだってなんともない。
だってボクはゴブリン・ハーフの族長、エルゼフの娘なんだから!
原初の大森林には高いレベルのモンスターがたくさんいるけど、ボクたち半妖族には魔力濃度が高くて住みやすい土地なんだって。森の加護を受けて、魔力も増すらしい。
不便はあるけど、ボクはこの森が、一緒に暮らす家族たちが大好き!
でも二日前に、とっても嫌なことがあった。
その時に父さんが大怪我をしちゃった。
村はいま、大変なことになってる。お父さんの力が必要だった。
だからボクは魔仙草を取って帰り、お父さんの怪我を治そうと考えた。魔仙草は怪我を治せる薬になるって、前に聞いたから。
魔仙草が生えているアス湖には何度か行ったことがある。場所も近いし、ボクの忍び足があれば何とかなると思っていた。
けど、アス湖に着いたら肝心の魔仙草が見当たらない。前に来たときは雑草みたいに、いっぱい生えていたのに。
ボクは魔仙草を探すのに夢中になりすぎて、アス湖の前まで来てしまっていた。
アス湖にはヒュージ・スライムがいる。しかもヒュージ・スライムを支配するユミール・スライムなんてのもいるらしい。
魔法がないと倒すのが難しいので、アス湖には近寄らないように言われていたのを思い出した。
慌てて離れようと振り返ると、そこには大量のヒュージ・スライムたちが私の逃げ道を塞いでいた。
いつの間に!?
いくら魔仙草探しに夢中だったからって、こんな大きなスライムが近づいてくるのに気づかないなんて!
ボクは命の危険を感じて、腰に差していたナイフをすぐに抜く。こんなナイフ、役に立たないなんて分かってる。
けど、無いよりマシだ。
「や、やるのか!?」
ナイフを突きつけながら叫んだ。スライムたちはプルプルと動くだけで、なにもしてこない。顔が無いから怒ってるのか喜んでいるのかも分からない。
怖かった。
「うううっ! なんで今日に限って、ヒュージ・スライムがこんなに集まってるんだよ!? 魔仙草も見つからないし!」
泣きそうになりながら叫んだ。
すると、ヒュージ・スライムたちが道を譲るように通路をつくった。
その向こうから、ニンゲンの男が歩いてくる。
「な、なんでニンゲンがこんなところに!?」
年はボクより少し上ぐらいだと思う。黒髪で、見たことの無い服を着ていた。
この森は高レベルのモンスターがたくさんいるからニンゲンは寄り付かない。冒険者が入ってくることもあるけど、目の前の男の人は冒険者と呼ぶには服装が軽すぎるし、武器すら持っていない。
男の人は、ゆっくりとボクの前まで歩いてきた。
顔は笑っている。
悪いことをされそうな感じはない。
そして笑顔で、
「迷子か?」
「ち、ちがう! 魔仙草を探しに来たんだ!」
なんか子ども扱いされたみたいで、ちょっと腹がたった。
・・・確かに、同じ年の子たちと比べると背は低い方だけど!
「お前みたいな女の子が一人でか?」
やっぱり子ども扱いしてる!
「お前じゃない! リンって名前がある!」
ボクは男に向かってナイフを突き出した。
「お前こそ、こんなところで何をやってるんだ! ニンゲンだろ!?」
「何をやってるか、か。難しい質問だ」
ボクの言葉に、男の人は遠い目をして少し考え込んでから、
「俺は、こいつらのボスをやっている」
と言ってきた。
・・・バカなんだろうか?
「なに言ってんだ!? これだけのスライムを従えてるっていうのか? スライムはテイミングできないって知らないのか?」
「え、そうなの?」
そうなのって・・・
しかも、こっちじゃなくて、誰もいない方に向かって聞いてる。
そして、
「だ、そうだ」
「はあっ!?」
なんだよコイツ!?
頭おかしいんじゃないか!?
「いや、すまない。とにかくリンは魔仙草を探してるんだな?」
「う・・・うん」
「どのくらい必要なんだ?」
「わからない。でも、できるだけたくさん」
できればお父さんだけじゃなく、怪我をした人達にも薬を分けてあげたい。
「ふむ? まあ、いい。 アクア、魔仙草を出してやれ」
「だるい」
そこで初めて、男の人の後ろに女の子が立っていることに気がついた。
その姿を見て、ギョッとしてしまう。
見た目は私より少し上の女の子だけど、全身が青い。
というか、あれって水だよね?
昔話で聞いた精霊に、よく似ている気がする。
「えっと・・・精霊? きみ精霊使いなの?」
「・・・? アクア。おまえって精霊なの?」
「違う」
「違うそうだ」
「そ、そうなんだ」
なんなんだろう、本当に。なんか警戒してるボクがバカみたいだ。
アクアと呼ばれた精霊?さんは、口から魔仙草を吐き出し、男の人に渡した。
・・・もう驚かないぞ。
男の人は少し顔をしかめたが、そのままボクの手に魔仙草を置いていく。
「あ、ありがとう」
魔仙草で両手がいっぱいになった。
「一人で帰れるか?」
「大丈夫! 魔物に見つからないように帰れるから!」
そう言って、ボクは駆け出した。なんだか可笑しくて、ちょっと笑ってしまう。
スライムたちがボクの通る道を開けるため、ぶつかり合っている様子も面白かった。
そういえば、男の人の名前を聞いてなかったな。
「あ、お兄ちゃん!」
「!?」
なんだろう、すごく驚いた顔をしてる。
「名前、聞き忘れちゃった!」
「あ・・・ああ。ヤマモト・ダイチだ」
「ヤマモトだね! ありがとう!」
魔仙草を落としながら、何度も手を振った。呆れたように笑いながら、ヤマモトお兄ちゃんは手を振り返してくれる。それに合わせるかのように、ヒュージ・スライムたちがゆらゆらと揺れている。
バイバイしてくれているのかな?
こうして見ると、なんか可愛らしく見えてくるから不思議だ。
・・・村が無事だったら、また会いたいな。
そんなことを考えながら、忍び足で森を進む。
魔仙草を抱えているから早くはないけれど、不思議と焦る気持ちにはならなかった。
・・・そいつが現れるまでは。
それに気がついたのは、森が騒がしくなったからだった。
鳥が大量に飛び立った。
不吉なものを感じて、その方向を見た。
ゴオン ゴオン
森の奥から何かが近付いてくる。
怖い。
さっきのスライムたちとは比べ物にならない不安。身動きすらできなかった。
ゴオン! ゴオン!
音が近付いてくる。
そして、それが目に入った。
大きさは、周りの木と同じぐらい。
―――地竜タイラント・ドラゴン。
ボクみたいな子どもでも知っている。このエリアで一番会ってはいけないモンスターだ。
タイラント・ドラゴンは森の木を気にすることなく薙ぎ倒しながら、一直線に進んでいる。血走った赤い目が何とも言えないほど怖かった。
逃げなきゃ!
そう思っても、身体が動いてくれない。何もできずに立っていると、そいつと目が合ってしまった。
怒りと憎しみに満ちた瞳だった。
何をそんなに怒っているのか知らないけれど、はっきりしていることが一つある。
その怒りと憎しみが、ボクに向かってくるということだ。
ギャルルルルルルルル!!
すごい唸り声を上げて、獲物であるボクに向かってくる。
くそっ!
動けっ!
動いてくれよっ!!
一瞬で目の前まで地竜が迫ってきた。大きな口が開き、牙が剥き出しになる。
「ひっ!」
腰が抜けて立てなくなったボクは、その場にへたり込んでしまう。
身長が低いことも幸いしたのだろう。地竜の牙は、ボクの頭の上をかすめた。
でも、それだけだ。
肉を噛み砕く感触がなかったためか、地竜がボクの位置を確認する。
赤い瞳と、また目が合った。
本当に動けない。
蛇に睨まれた蛙って、こういうことなんだろうか?
地竜がゆっくりと口を開けた。その動きが、何故かゆっくりに見えた。
お父さん、ごめんなさい。
自分の命を諦めた瞬間だった。
「やめろォォォォォォ!!」
ヤマモトお兄ちゃんの声が聞こえた。
リン視点でした!
連続性が欲しかったので、二話連続投稿でした。




