切り開かれた封筒
放課後の部室。
「相談部」と書かれた白色プレートが無造作に張ってある。
がちゃり…
いつものように扉を開くと、ソファーの上で誰かが寝っ転がっている。
平塚千晶。
この廃部寸前の部活の部長である。
その横を素通りして、閉め切った部屋のカーテンをサッと開けた。そうして、窓を開け払う。
あたたかい風が吹き込み、春の優しい光が、暗い部屋に注ぎ込まれる。舞い立つ埃が、光に反射してきらきらとした。
改めて辺りを眺めると、なんて何もない殺風景な部屋だろうと思った。
なんでもかんでも置いて、散らかった大きな机。ぎしぎしと金属の嫌な音を立てる椅子。卒業していった先輩たちが使っていた白いパソコン。
……そのぐらいしかない。
はっきり言ってこの部は、貧乏すぎると思う。
ほかの部みたいに大会なんてものは存在しないので、当たり前だとは思うけれど…
さすがにこれは…
「ふぁ……よく、寝た」
ギシッとソファーが音を立てた。ちょっと、びくっとして背筋を震わせた。
「あ、起きたんですね。昼間から寝すぎだと思います。部長なんですから、しっかりしてください」
溜め息混じりに、そう言った。本人の耳に入ってるかは微妙だ。
「おはよー。ゆきちゃん」
「……聞いてましたか??」
「なにを?」
「……………」
話が噛み合わないとは、まさにこの事だ。
正直、むっとした。まぁ、いつものことだから慣れてしまったけれど…
「あと、私の名前は浅井ゆきえです。勝手に゛ゆきちゃん゛とか呼ばないでください。馴れ馴れしいです」
「ひどいなぁ、ゆきちゃんは。だって、ゆきちゃんはゆきちゃんでしょ?」
「…………」
あぁ、もうなんか、訳わからなくなりそう。千晶先輩には何度言っても分かってくれなさそうだ。
「……今日は、何をするんですかね?手紙、届いてますか?」
「届いていることを願う!」
千晶先輩が、ポスト型の箱をソファーの横から拾い上げた。そうして、箱を逆さまにした。ソファーの上に、ばさっと紙切れが何枚か落ちてきた。
「1、2、3枚…。はい、今日のお仕事なし!」
「いや、目の前にあるじゃないですか!三枚目で数えるのをあきらめないでください」
ざっと数えただけでも何十枚。先が思いやられる。
「もう、しっかりしてくださいよ。小学生じゃないんですから」
私は、さらにむっとした。
先輩がこんなダメ人間だから、思わずツッコミを入れたくなってしまうんだ。
「相談部なんですよ。悩みを解決しなくてどうするんですか」
「……だよなー」
そう、私が一応所属しているのは、相談部という廃部寸前の部活だ。
相談部というのは、その名前の通り゛相談される部゛である。この高校の生徒たちから、色々な相談を受けて、それを解決していく部…らしい。
仮入部したばかりの私には、これくらいしかわからないのだ。
それに、これといった相談も解決したこともない。
「まぁまぁ、そんなにカリカリしないで」
「そうさせない人がいなければ、私だってこんなにカリカリしませんよ」
千晶先輩は、目を細めて、ふっと笑った。
それを少し冷めた目で見つめる。
(あぁ、まただ…)
千晶先輩は、いつもにこにこ笑っている。
でも、その笑顔が本当は嘘であることは自分しか知らない。
私は、幼い頃から人の心の声が聞こえた。人の思っていること、感じていることが、言葉じゃなくても自然と伝わってきた。
普通の人なら、感情を持っていて当たり前だと思っていた。
でも、千晶先輩は違った。
何も伝わってこない。何も聞こえてこない…
私は、少しあきれたように言った。
「……早く仕事を終わりにしちゃいましょう。こんなことじゃいつまだたっても終わりませんよ」
「そうだね。じゃあ、今回のお仕事はー…」
千晶先輩が気まぐれに一枚の封筒を拾い上げる。その一枚の封筒で、運命が決まる。
「じゃあ、コレで…」
春の訪れを感じさせる淡い桜色の封筒。桜の花びらが散りばめられていて、いかにも女の子らしい。
千晶先輩がお気に入りの銀色のレターカッターを制服の裏ポケットから取り出す。切れる方とは反対の部分には、きらきらとした雪の結晶の形をしていて、綺麗だ。
手慣れた手つきで、すーっと封筒を開封していく。
そうして、運命も同時に切り開かれた……
ゆっくりと更新していきます。
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