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祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


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三年ぶんの畑

ドルグが加わって最初にやったのは、村の家を一軒ずつ開けて回ることだった。

 二十三軒あって、そのうち十九軒は屋根が生きていた。残りの四軒は谷側に建っていたせいで湿気にやられていて、床板を踏むとふかふかと沈んだ。

「四軒は潰す」

 ドルグは床を踏みながら言った。

「潰して、材木を取る。柱と梁は生きてるから、十九軒の傷んだところに回せる」

 俺は帳面に書き留めていった。ギルドの依頼票の裏を切って綴じた、手作りの帳面だった。

「あと、この村は水回りで死んだ村だ。まず水路を全部見る」

 その言葉どおり、俺たちは三日かけて水路を上から下まで歩いた。

 総延長は千二百歩ぶん、石組みの崩れが十一か所、雑草が根で持ち上げてしまった箇所が四か所あって、そのうち手当てが要るのは崩れの十一か所だけだと、ドルグは歩きながら次々に判断していった。

「石は近くにあるか」 「岩喰いが食い残したのが、下流に山ほど転がってます」 「じゃあ買わなくていいな」

 ドルグの言い方はぶっきらぼうだったが、内容は徹底して「今あるもので済ませる」という方針で貫かれていて、俺はそれが妙に嬉しかった。

   ■

 問題は、畑だった。

 三年ぶんの雑草というのは、抜けばいいという話ではない。根が土の中で網になっていて、鍬を入れても跳ね返される。

 俺とティナが半日かけて耕したのは、畝一本ぶんにも満たなかった。

「これ、全部やったら冬になりますね」

 ティナが腰を叩きながら言った。手のひらに豆が三つできていたので、俺は自分の手拭いを裂いて巻いてやった。

「痛くないですか」 「痛くないです、大丈夫です」 「ティナさん、それ、五回目です」 「え?」 「大丈夫です、が五回目です。数えてるので」

 ティナは口を開けて、それから真っ赤になった。

「な、なんで数えてるんですか!」 「癖です」

 その日の夕方、俺は畑の隅で、割れた壺を見つけた。

 種壺だった。口が欠けて、中身は雨水と泥で腐りきっていて、どう見ても使い道がない。

 ――もったいないな。

 俺は屈んで、壺に触れた。

 視界が変わって、欠けていない壺の姿が重なった。それだけだった。中身までは戻らない。当たり前だ、俺のスキルは時間を巻き戻すものではなくて、ただ、そのものが本来どうあったかを教えるだけだ。

「拾う」

 壺は壺のまま、俺の手の中にあった。

 ただ、欠けた口の断面が、ほんの少し滑らかになった気がした。

「ノアさん、それどうするんですか」 「割れてるんですけど、割れてるのは口だけなので、底は使えます」 「底だけ?」 「苗床にします」

 俺が言うと、ティナは壺を覗き込んで、それから顔を上げた。

「あの、ノアさん。わたし、ちょっと試していいですか」

 ティナは壺を膝に抱えて、目を閉じた。

 教会で四千回唱えたという治癒の詠唱を、彼女は口の中で小さく転がした。

 ――何も起きなかった。

 ティナが目を開けて、へへ、と笑おうとしたので、俺は先に口を開いた。

「もう一回、やってみてください」 「え?」 「治すんじゃなくて。割れた口と、落ちてる欠片を、くっつけるつもりで」

 ティナは俺を見て、それから足元に落ちていた欠片を拾い上げて、割れ口に押し当てた。

 そして、もう一度、目を閉じた。

 次の瞬間、彼女の手のひらから、淡い光が滲み出した。

 それは治癒魔法の白い光とは違う、もっと黄色っぽい、蜜みたいな色をしていて、割れ目に沿ってじわりと広がっていった。

 光が消えたとき、壺の口は繋がっていた。

 繋ぎ目はくっきり残っていて、上手とは言えない仕上がりだったが、壺は確かにひとつの壺に戻っていた。

 ティナは自分の手を見て、壺を見て、また手を見た。

「……えっ」 「ティナさん」 「えっ、えっ、なんで、なんで壺は」

 俺は壺を受け取って、逆さにして振ってみた。水は漏れなかった。

「たぶん、ティナさんの力は治癒じゃないです」

 俺は言った。

「くっつける力です。壊れたものの断面を合わせて、繋ぐ力」

 ティナの顔から、表情が抜け落ちた。

 そして、両手で口を押さえて、ゆっくりとしゃがみ込んだ。

「……じゃあ、わたし」 「はい」 「わたし、十一年、ずっと、できない魔法だけを練習してたんですか」

 俺は答えなかった。

 答えられる答えを持っていなかったし、そういうときに軽い言葉を出すと、あとで自分が嫌になることを知っていたからだ。

 代わりに、俺は壺を彼女の膝の上に置いた。

「これ、ティナさんが直したので、ティナさんのです」

 ティナはしゃがんだまま、壺を抱えて、しばらく動かなかった。

 風が谷を渡って、雑草が一斉に鳴った。

「……ノアさん」 「はい」 「わたし、もっと壊れてるもの、探してきていいですか」

 顔を上げた彼女は、鼻の頭を真っ赤にしながら、笑っていた。

「いくらでもありますよ」

 俺がそう言うと、ティナは立ち上がって、走っていった。

 その夜、彼女は村中の割れた食器を三十七個抱えて戻ってきて、ドルグに「置く場所を考えろ」と怒られた。

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