王都
王都までは、街道を北へ十二日だった。
道中、俺たちは三つの町を通った。
どの町にも、難民がいた。
二つ目の町で、俺は思わず足を止めた。
広場の壁に、紙が貼ってあった。
継ぎ手の手引きだった。
俺たちが刷ったものではなかった。
字が違う。誰かが書き写して、貼ったものだった。
その前に、十人ほどが集まっていた。
「――そこ、読める人いるか」
誰かが言った。
「膝んとこ、なんて書いてある」
「『膝の骨が折れたときは、板を二枚、前と後ろに当てる』」
文字が読める男が、読み上げていた。
「『縛るのは、三か所。上、真ん中、下』」
リディアが、俺の袖を引いた。
「ノアさん」 「はい」 「これは、いい数字になります」
彼女は言った。
「私、数えます」
■
王都に着いたのは、十二日目の夕方だった。
城壁の中に入って、俺は最初に思ったのは、人が多い、ということだった。
次に思ったのは、においだった。
人と、ゴミと、燃えたものと、それから――薬のにおいがした。
「――負傷兵です」
セリアが言った。
「東の平野から、王都に直接送られてる」
彼女は通りを見た。
道端に、寝かされている兵がいた。壁にもたれて座っている兵がいた。
何百人もいた。
誰も、手当てをしていなかった。
「なんで」
俺が言うと、セリアは言った。
「王都の施療院は、貴族と将校が優先なの」
彼女は言った。
「歩兵は、あそこ」
彼女が指したのは、路地だった。
■
その夜、俺たちは宿に入った。
軍務省が用意した宿で、要するに軟禁だった。
窓の外に、二人の兵が立っていた。
俺が窓辺に座っていると、扉が叩かれた。
開けると、カイルが立っていた。
彼は前より痩せていて、髪を短く切っていた。
左足は、まだ引きずっていた。
「――久しぶりだな」
彼は言った。
「入っていいか」
「どうぞ」
カイルは中に入って、椅子に座って、そして、いきなり言った。
「明日の査問、俺が証人に立つ」
■
「なんでですか」
俺が聞くと、彼は言った。
「俺は今、王都守備隊の中隊長だ」
彼は言った。
「暁の剣が消えたあと、拾われた」
彼は言った。
「――拾われるってのは、こういう気分か」
彼は少し笑って、それから、真顔になった。
「ノア。俺の中隊は二百人だ」
彼は言った。
「そのうち、東の平野から下がってきた兵が九十人いる」
彼は言った。
「九十人のうち、四十一人が、アルカで手当てを受けてる」
俺は顔を上げた。
「四十一人?」 「後送先だったろう」
カイルは言った。
「その四十一人が、俺の中隊で今、動いてる」
彼は言った。
「――利敵行為で吊るされたら、そいつら全員、誰に助けられたことになる」
■
「カイルさん」
俺は言った。
「証人に立つと、あなたも巻き込まれますよ」 「巻き込まれる」
彼は即答した。
「軍務省の査察官に逆らうと、中隊長は飛ぶ。たぶん飛ぶ」
彼は言った。
「三年前の俺なら、飛ばなかった」
彼は言った。
「三年前の俺は、目の前で毎晩装備を直してる奴を、三年見なかった」
彼は立ち上がった。
「今度は、見る」




