査問
査問は、軍務省の大広間で行われた。
長机が並んで、その向こうに軍務省の役人が七人、軍から将官が三人座っていた。
中央にバルテル。
俺は、その前に立たされた。
「――ノア・ガラット」
バルテルが言った。
「認否を問う。貴殿は、帝国軍指揮官イレーネ・フォスに対し、医療技術の版および印刷方法を供与すると約したか」
「約しました」
俺は答えた。
「後悔しているか」 「してません」
広間がざわめいた。
「――理由を述べよ」
俺は、リディアに渡された紙を広げなかった。
覚えていたからだ。
「三つあります」
俺は言った。
「ひとつ。あの技術は、既に帝国に渡っていました。俺が送らなくても、向こうは刷ります」
俺は言った。
「ふたつ。俺が『刷り方も教える』と書いたのは、間違って刷られると人が死ぬからです」
俺は言った。
「包帯の巻き方は、一行間違えると逆効果になります。締めすぎると腕が腐ります」
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「――三つ目は」
バルテルが促した。
俺は言った。
「三つ目は、理屈じゃないです」
俺は言った。
「向こうの兵も、包帯を巻けなくて死んでるからです」
広間が、静まった。
「町長」
将官の一人が口を開いた。
白髪の、六十くらいの男だった。
「それは、敵だぞ」 「はい」 「敵が死ねば、味方が生きる」 「はい」
俺は言った。
「でも、うちの町に来た兵は、八百二十一人です」
俺は言った。
「そのうち六十三人が死にました。死亡率、七・七パーセントです」
俺は言った。
「領都に送られた兵の死亡率は、四十九パーセントです」
俺は言った。
「差は、四十一パーセントです」
俺は言った。
「――八百二十一人のうち、三百四十人が、包帯の巻き方だけで生きました」
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俺は、続けた。
「帝国の負傷兵は、死亡率が四割から二割に下がったそうです」
俺は言った。
「これは、確かに敵の戦力になります」
俺は言った。
「でも、下がった二割の中に、うちの町を襲った四百人が入ってます」
俺は言った。
「あの四百人のうち、俺たちは何人か殺しました。数えてないですけど、殺しました」
俺は言った。
「殺した相手の、その隣にいた奴が、包帯で生きてます」
俺は言った。
「それが罪なら、俺は罪です」
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バルテルが、机を叩いた。
「――町長。感傷は法廷では通用せん」
「感傷じゃないです」
リディアが前に出た。
「数字です」
彼女は帳簿を掲げた。
「アルカ町の刷った手引きは、この八か月で四千二百枚が出回りました」
彼女は言った。
「うち、王国内が三千八百枚。帝国側に渡ったと推定されるのが四百枚」
彼女は言った。
「九割は、王国内です」
彼女は言った。
「町長を利敵で裁く場合、この四千二百枚すべてが、利敵の証拠物件になります」
彼女は顔を上げた。
「王国内の三千八百枚も、回収して焼くことになります」
広間が、ざわめいた。
「――そして」
リディアは言った。
「その三千八百枚は、現在、王都のこの建物から徒歩十分の路地にも、貼ってあります」
彼女は言った。
「昨日、確認しました」
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バルテルの顔が、赤くなった。
「――なら、焼く」
彼は言った。
「利敵の物件だ。回収して焼く」
「――お待ちください」
声がした。
広間の入口に、カイルが立っていた。
「王都守備隊第四中隊長、カイル・レイノルズであります」
彼は敬礼した。
「証人として、発言の許可を求めます」




