↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/72

東の平野

その年の夏、東の平野で王国軍が敗れた。

 知らせは、逃げてくる兵と一緒に来た。

 三日で四百人が街道を通り、そのうち百二十人がアルカに入った。

 彼らが持ってきた話は、どれも同じだった。

「――途切れなかった」

 誰もが、そう言った。

「向こうは、三日でも五日でも、同じ速さで押してくる」

   ■

 フランが、逃げてきた兵から聞き取りをした。

 右手一本で帳面を押さえて、三日間、聞き続けた。

 四日目の朝、彼は俺のところへ来た。

「――坊主。妙な話がある」

 彼は言った。

「帝国軍、七日目に止まってる」

「止まった?」 「攻勢を止めて、陣を敷いた」

 フランは帳面をめくった。

「王国軍は崩れてる。追えば領都まで行けた。なのに止まった」

 彼は言った。

「理由がわからん」

   ■

 その理由は、十日後にわかった。

 アルカの門に、一人の男が立った。

 帝国軍の伝令だった。

 武器を持たず、白い布を掲げて、たった一人で街道を歩いてきた。

 彼は俺の前で、書状を差し出した。

「――帝国第七軍団、分遣隊指揮官イレーネ・フォスより」

 彼は言った。

「アルカ町長、ノア・ガラット殿へ」

 俺は書状を開いた。

 短かった。

 『冬に、そちらの町の「継ぎ手の手引き」が、我が軍の陣中に流れてきた』

 『捕虜が持っていた。我が軍の軍医が、それを読んだ』

 『三月で、我が軍の負傷兵の死亡率が、四割から二割に下がった』

 俺は、顔を上げた。

 伝令は、無表情だった。

 俺はもう一度、書状を読んだ。

 『貴殿の町の技術は、既に我が軍を助けている』

 『よって、以下を提案する』

 『――アルカ町を、帝国の保護下に入れよ』

   ■

 俺は、書状を握ったまま、動けなかった。

 背後で、リディアが言った。

「――読み上げてください、ノアさん」

 俺は読み上げた。

 集まった町の人間が、静まり返った。

「保護下って、なんですか」

 誰かが聞いた。

「占領されるってことだ」

 ドルグが言った。

「言い方が丁寧なだけだ」

「――違います」

 リディアが言った。

 彼女は俺の手から書状を取って、最後の行を読んだ。

 そこには、こう書いてあった。

 『帝国は、この町を接収しない』

 『帝国は、この町に何も要求しない』

 『ただ、この町が滅びないことを望む』

 『――なぜなら、私はまだ、君の答えを聞いていない』

   ■

 その夜、俺は水車小屋にいた。

 千二百四十八の名前の前に座って、書状を読み返していた。

「――ノア」

 鞘の中から、エルの声がした。

「あの女は、何を言っている」

「わかりません」

 俺は言った。

「でも、たぶん」

 俺は言った。

「あの人、泥に置いてきた百体のことを、まだ考えてます」

 俺は書状を畳んだ。

「一年半、考えてるんだと思います」

   ■

 三日後、俺は返事を書いた。

 リディアに三度書き直させられて、四度目で通った。

 文面は、こうだった。

 『保護は要りません』

 『代わりに、ひとつ提案します』

 『手引きの版を、そちらに送ります。刷り方も教えます』

 『帝国が刷って、帝国の兵に配ってください』

 『こちらは、こちらで刷ります』

 最後に、俺はこう書き足した。

 『イレーネさん』

 『あなたが泥に置いてきた百体は、うちで壊しました』

 『壊すとき、一体につき三度、鎚を入れました』

 『一度で止まるんですけど、三度打ちました』

 『――そういうのを、雑にしない村です』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。