目録
雪が緩みはじめた頃、大聖堂から使者が来た。
運んできたのは、木箱ひとつだった。
中には、羊皮紙の束が入っていた。
表紙に、こう書いてあった。
『王暦五七〇年 焼却文書目録 第七文書庫最下層』
ティナが箱の前で、動けなくなった。
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目録は、素っ気ないものだった。
焼いた文書の題名と、点数と、そして――所有者の名前が並んでいた。
『継ぎの手引 三巻 所有 ミルカ・ヴェン』
『器継ぎ覚書 一巻 所有 ヨナ・アルデ』
『骨接ぎ法 二巻 所有 サラ・トゥル』
名前が、四百七十三並んでいた。
ティナは、最初の頁から、指でなぞって読んでいった。
三十人ほど読んだところで、彼女の指が止まった。
「――ノアさん」
彼女は言った。
「アルベールが、あります」
俺は覗き込んだ。
『継ぎの心得 一巻 所有 ハンナ・アルベール』
「……ハンナ」
ティナが呟いた。
「わたし、教会に拾われた子なんです」
彼女は言った。
「捨てられてたところを拾われたって聞いてました。だから、アルベールは教会がくれた名字だと思ってました」
彼女は言った。
「――教会が、なんで、この名字をくれたんでしょう」
俺は答えられなかった。
ティナは、目録を抱えた。
「四百七十三人」
彼女は言った。
「わたし、この人たちの名前、全部読みます」
彼女は言った。
「読んで、書き写して、教室の壁に貼ります」
彼女は顔を上げた。
「――三百年、誰にも呼ばれてないので」
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目録と一緒に、手紙が入っていた。
アルドリックの字だった。
短かった。
『目録を送る。写しは作らせていない。原本だ』
『聖庁には、失われたと報告した』
『――ノア・ガラット。私の問いに、答えが出た』
『私は急いでいる。理由を知りたければ、来なさい』
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俺は三日後、領都へ発った。
同行はティナとゼロだった。
セリアは施療所を離れられず、リディアは帳簿があり、ドルグとフランは村の守りがあった。
出発の朝、ミカが俺に何かを押しつけた。
布に包まれていたのは、短刀だった。
鞘も柄も飾りがなく、刃は短い。
「なにこれ」 「小刀。切る用」
彼女は言った。
「戦う用じゃない。紐切ったり、木削ったり、そういうの」
彼女はそっぽを向いた。
「継ぎ目、六本ある」
俺は刃を見た。
細い金の線が、六本走っていた。
「屑鉄から作った。全部、村で出た屑」
彼女は言った。
「ロブさんが打った鍬の折れたのも、入ってる」
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領都に着いたのは、五日後だった。
大聖堂の白い塔が見えたとき、ティナが立ち止まった。
「……大丈夫です」
彼女は言った。
俺は数えかけて、やめた。
「今日は、数えなくていいですよ」
俺が言うと、彼女はちょっと笑った。
「ノアさん、それずるいです」
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控えの間に通された。
アルドリックは、椅子に座っていた。
前より、さらに痩せていた。
顔色が、紙のようだった。
彼は俺たちを見て、それから、ティナを見た。
「――目録は、届いたか」 「届きました」
ティナは頭を下げた。
「ありがとうございます」
「礼を言うなと言った」
アルドリックは言った。
「私は、返しただけだ」
彼は言った。
「盗んだものを、三百年後に返した。それは善行ではない」




