冬の帳簿
冬が来た。
谷は雪に埋まって、街道は月に三度しか通らなくなった。
その代わり、村は動き続けた。
朝、鍛冶場の煙が上がる。ミカと弟子が六人。難民の中から選んだ若い連中だ。
昼、施療所で手当てが回る。セリアの班が二十二人。半分は元難民、半分は回復した負傷兵。
夕方、炭焼き窯から煙が上がる。黒炭を焼く班が十四人。
夜、長屋の一室でリディアが帳簿をつける。手伝いが三人ついた。
そして、ティナの教室があった。
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継ぎ手の教室は、週に二度、夜に開かれていた。
最初の生徒は四人だった。三月経って、十九人になっていた。
「――割れた断面を、よく見てください」
ティナが言った。
「継ぐのは、魔法じゃないです。まず、合わせるんです」
彼女は割れた皿を持ち上げた。
「合わないところを無理に繋ぐと、そこがまた割れます」
彼女は言った。
「わたし、最初、それをやりました。三十個くらい失敗しました」
生徒が手を挙げた。
「先生。合わないときは、どうするんですか」
「削ります」
ティナは即答した。
「合うまで削ります。そのぶん、器は小さくなります」
彼女は言った。
「小さくなっても、使えます」
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冬のあいだに、村で継ぎ手の力が出た者は、三人だった。
十九人のうち三人。
二割にも満たない。
「――少ないですね」
俺が言うと、ティナは首を振った。
「多いです」
彼女は言った。
「教会は十一年で、わたし一人も出せませんでした」
彼女は言った。
「あと、力が出なかった十六人も、包帯は巻けるようになりました」
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冬至の日、村は宴をやった。
リディアが「三日ぶんの食料を一日で使います」と言って、全員が賛成した。
ドルグが猪を三頭焼いて、難民の中にいた元料理人が指揮を取った。
黒炭の炉で焼いた芋が、山盛りで出た。
そして、その日いちばん人気だったのは、ティナが作ったものだった。
「――割れた壺で作りました」
彼女は言った。
「継いだんですけど、継ぎ目が汁を吸うんです。それで味が染みるんです」
壺の中には、猪の脛肉と根菜が、丸一日煮込まれて入っていた。
継ぎ目のところの土が、汁を吸って黒くなっていた。
一口食って、俺は何も言えなくなった。
脂が全部溶けていて、根菜が崩れる寸前で止まっていて、塩気が奥のほうから来た。
カル爺さんが匙を持ち上げて、三口食って、それから言った。
「――娘っ子。これは、割れた壺でしか出ん味だ」
老人は言った。
「新しい壺は、汁を吸わん」
ティナが、ぱっと顔を輝かせた。
「ですよね!」
彼女は言った。
「わたし、それ言いたかったんです!」
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その夜、リディアが帳簿を閉じて、俺のところへ来た。
「ノアさん。年の締めです」
彼女は言った。
「報告します」
彼女は最初の頁を開いた。
「人口、三百四十七名。うち、恒久的な住民が百八十九名、療養中の兵が百五十八名」
彼女は言った。
「一年半前は、四名でした」
彼女は二枚目をめくった。
「収入。黒炭の売却と軍の補給を合わせて、金貨で三十一枚」
彼女は言った。
「支出、二十九枚。差し引き、二枚の黒字です」
彼女は言った。
「――カーツ家の借金、金貨十二枚。私は、そのうち二枚を返しました」
俺は顔を上げた。
「リディアさん」 「はい」 「その借金、村で返しません?」
彼女の手が止まった。
「――なんですって」 「二枚あるなら、村で返します」
俺は言った。
「あなた、二年間、うちの帳簿だけ見てたじゃないですか」
リディアは、しばらく何も言わなかった。
それから、眼鏡を外して、袖で拭いて、かけ直した。
「……ノアさん」 「はい」 「そういうことを、突然言わないでください」
彼女は言った。
「私は、泣かないので有名だったんです」




