↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/73

冬の帳簿

冬が来た。

 谷は雪に埋まって、街道は月に三度しか通らなくなった。

 その代わり、村は動き続けた。

 朝、鍛冶場の煙が上がる。ミカと弟子が六人。難民の中から選んだ若い連中だ。

 昼、施療所で手当てが回る。セリアの班が二十二人。半分は元難民、半分は回復した負傷兵。

 夕方、炭焼き窯から煙が上がる。黒炭を焼く班が十四人。

 夜、長屋の一室でリディアが帳簿をつける。手伝いが三人ついた。

 そして、ティナの教室があった。

   ■

 継ぎ手の教室は、週に二度、夜に開かれていた。

 最初の生徒は四人だった。三月経って、十九人になっていた。

「――割れた断面を、よく見てください」

 ティナが言った。

「継ぐのは、魔法じゃないです。まず、合わせるんです」

 彼女は割れた皿を持ち上げた。

「合わないところを無理に繋ぐと、そこがまた割れます」

 彼女は言った。

「わたし、最初、それをやりました。三十個くらい失敗しました」

 生徒が手を挙げた。

「先生。合わないときは、どうするんですか」

「削ります」

 ティナは即答した。

「合うまで削ります。そのぶん、器は小さくなります」

 彼女は言った。

「小さくなっても、使えます」

   ■

 冬のあいだに、村で継ぎ手の力が出た者は、三人だった。

 十九人のうち三人。

 二割にも満たない。

「――少ないですね」

 俺が言うと、ティナは首を振った。

「多いです」

 彼女は言った。

「教会は十一年で、わたし一人も出せませんでした」

 彼女は言った。

「あと、力が出なかった十六人も、包帯は巻けるようになりました」

   ■

 冬至の日、村は宴をやった。

 リディアが「三日ぶんの食料を一日で使います」と言って、全員が賛成した。

 ドルグが猪を三頭焼いて、難民の中にいた元料理人が指揮を取った。

 黒炭の炉で焼いた芋が、山盛りで出た。

 そして、その日いちばん人気だったのは、ティナが作ったものだった。

「――割れた壺で作りました」

 彼女は言った。

「継いだんですけど、継ぎ目が汁を吸うんです。それで味が染みるんです」

 壺の中には、猪の脛肉と根菜が、丸一日煮込まれて入っていた。

 継ぎ目のところの土が、汁を吸って黒くなっていた。

 一口食って、俺は何も言えなくなった。

 脂が全部溶けていて、根菜が崩れる寸前で止まっていて、塩気が奥のほうから来た。

 カル爺さんが匙を持ち上げて、三口食って、それから言った。

「――娘っ子。これは、割れた壺でしか出ん味だ」

 老人は言った。

「新しい壺は、汁を吸わん」

 ティナが、ぱっと顔を輝かせた。

「ですよね!」

 彼女は言った。

「わたし、それ言いたかったんです!」

   ■

 その夜、リディアが帳簿を閉じて、俺のところへ来た。

「ノアさん。年の締めです」

 彼女は言った。

「報告します」

 彼女は最初の頁を開いた。

「人口、三百四十七名。うち、恒久的な住民が百八十九名、療養中の兵が百五十八名」

 彼女は言った。

「一年半前は、四名でした」

 彼女は二枚目をめくった。

「収入。黒炭の売却と軍の補給を合わせて、金貨で三十一枚」

 彼女は言った。

「支出、二十九枚。差し引き、二枚の黒字です」

 彼女は言った。

「――カーツ家の借金、金貨十二枚。私は、そのうち二枚を返しました」

 俺は顔を上げた。

「リディアさん」 「はい」 「その借金、村で返しません?」

 彼女の手が止まった。

「――なんですって」 「二枚あるなら、村で返します」

 俺は言った。

「あなた、二年間、うちの帳簿だけ見てたじゃないですか」

 リディアは、しばらく何も言わなかった。

 それから、眼鏡を外して、袖で拭いて、かけ直した。

「……ノアさん」 「はい」 「そういうことを、突然言わないでください」

 彼女は言った。

「私は、泣かないので有名だったんです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。