後送
最初の負傷兵が来たのは、雪の降った翌日だった。
荷馬車が三台、街道から谷へ入ってきた。
積まれていたのは、四十一人だった。
「――八日で来た」
護送の軍曹が言った。
「領都なら十六日だ。半分だ」
彼は荷台を指した。
「途中で死んだのは、二人だけだ」
彼は言った。
「前は、半分死んだ」
■
施療所は、村の奥に移してあった。
長屋を一棟まるごと使って、寝台が三十床。足りない分は床に藁を敷いた。
セリアが入口に立って、四十一人を仕分けた。
「――右の列。処置が要る人」
彼女は言った。
「左の列。処置より休息が先の人」
彼女は一人ずつ見て、指で示していった。
迷いがなかった。
三百人の列の前で震えていた人が、四十一人を三分で仕分けていた。
「セリアさん」
俺が声をかけると、彼女は振り返らずに言った。
「ノア。今、話しかけないで」
彼女は言った。
「――ごめん。あとで」
■
その日、セリアは治癒を一度も使わなかった。
夜になって、俺が水を持っていくと、彼女は施療所の外の階段に座っていた。
「使わなかったんですね」 「使う相手がいなかった」
彼女は言った。
「治癒でしか助からない人が、今日はいなかったの」
彼女は言った。
「全員、処置で足りた」
彼女は自分の手を見た。
「――ノア、わたし、今日、何人助けたと思う?」
「四十一人ですか」 「違う」
彼女は首を振った。
「ゼロ人」
彼女は言った。
「助けたのは、十四人の手当て班と、包帯を巻いた難民の人たちと、寝台を運んだ男の人たち」
彼女は言った。
「わたしは、並ばせただけ」
彼女は言った。
「――でも、四十一人が生きてる」
セリアは、初めてこちらを見た。
泣いていなかった。
「わたし、聖女って何なのか、十年わからなかったの」
彼女は言った。
「今日、ちょっとわかった」
彼女は言った。
「並ばせる人だった」
■
三日後、二台目が来た。六十三人。
六日後、三台目。八十人。
半月で、村にいる負傷兵は二百人を超えた。
施療所は三棟になった。
村の人口は、三百四十人になっていた。
「――ノアさん」
リディアが帳簿を三冊抱えて走ってきた。
「限界です」
彼女は言った。
「食料ではありません。食料は軍の補給が回っていますから、なんとかなります」
彼女は言った。
「屋根です」
彼女は言った。
「三百四十人が入る屋根が、この谷にありません」
■
その夜の会議で、ドルグが地図を広げた。
カル爺さんが荷車から手を伸ばして、谷の北側を指した。
「ここに、昔、炭焼き小屋が七つあった」
老人は言った。
「三十年前に炭焼きが廃れて、みんな崩れた」
彼は言った。
「だが、基礎の石は残っとる。石を掘り出せば、そこに建てられる」
彼は言った。
「地面が固まっとるから、新しく建てるより早い」
ドルグが頷いた。
「材木は」 「潰した家はもうない」
ミカが言った。
「でも、あるよ」
彼女は谷の入口を指した。
「壊した柵。あれ、家四軒ぶんの柱だった」
彼女は言った。
「折れたのは半分。残りは使える」
俺は帳面に書いた。
基礎の石が三十年前のもの。柱が二週間前に折れたもの。
全部、一度捨てられたものだった。




