炉に、もう一度
ロブの葬いは、雪が降る前の日に行った。
村の墓は、谷の南向きの斜面にある。三年前に村が空になる前からある古い墓地で、雑草に埋もれていたのを、去年トビーと二人で刈った。
ロブの父親の墓が、そこにあった。
俺たちは、その隣に穴を掘った。
ミカは、一度もこちらを見なかった。
彼女はずっと、掘る手を止めなかった。
■
埋め終わったあと、カル爺さんが荷車の上から言った。
「ロブの父親は、四十二で死んだ」
老人は言った。
「炉を組んで、三年目だ。炉の煙にやられた。あの頃は煙道の作り方がまだ雑でな」
彼は言った。
「そのとき、ロブは十四だった」
彼は言った。
「十四で、炉を継いだ」
カル爺さんはミカを見た。
「――娘っ子。お前、いくつだ」
ミカは、答えなかった。
答えられなかった。
「十四だな」
老人は言った。
「同じだ」
■
ミカが炉に火を入れ直したのは、それから五日後だった。
彼女は誰にも言わずに、朝の暗いうちに鍛冶場に入った。
俺が気づいたのは、煙突から煙が上がっていたからだ。
中を覗くと、彼女は炉の前にしゃがんでいた。
火袋の底の、赤っぽい石を見ていた。
「――ノア」
彼女は振り返らずに言った。
「あたし、この石のこと、まだ半分しか聞いてない」
彼女は言った。
「なんで一枚だけ焼き方が違うのか、聞いた。『親父が入れた』って言われた」
彼女は言った。
「なんで入れたのかは、聞いてない」
俺は、その隣にしゃがんだ。
「聞けなかったですね」 「うん」
ミカは言った。
「でも、わかることもある」
彼女は石を指でなぞった。
「この石、他のより硬い。硬いから、いちばん熱くなるとこに置いてある」
彼女は言った。
「つまり、あの人の親父は、炉のどこが一番熱くなるか、組む前に知ってた」
彼女は言った。
「知ってて、そこに一番いい石を置いた」
ミカは立ち上がった。
「――そういうのは、教わらなくてもわかる」
彼女は言った。
「見ればわかる」
彼女はふいごに手をかけた。
「ノア、押して」
俺は押した。
ゆっくり、一定で。速くしないで。
二年前、川原で言われたとおりに。
■
その日、ミカが最初に打ったのは、武器ではなかった。
鍬の刃だった。
畑が戦で潰れて、春までに全部やり直さなければならない。鍬が二十本要る。
「武器は?」
俺が聞くと、彼女は言った。
「後」
彼女は言った。
「あの人、四十年、鍬しか打ってなかった」
■
その夜、村の広場で、ボロが騒ぎを起こした。
彼は馬より大きい姿のまま、炊事の鍋に鼻を突っ込もうとして、鍋ごと引っくり返した。
スープが全部こぼれて、百四十人ぶんの夕飯が消えた。
村中の視線が、一斉に彼に刺さった。
「……む」
ボロは硬直した。
「これは、その」
「ボロくん」
ティナの声が、地の底から響いた。
「大きすぎます」
「うむ。しかしだな」 「大きすぎます!」
ボロは、しばらく黙っていた。
そして、目を閉じた。
――縮んだ。
全員が固まった。
馬より大きかった神獣が、みるみる縮んで、犬くらいになって、最後に猫より少し大きいくらいで止まった。
毛は銀色のままだった。
「……できるんですか、それ」
俺が聞くと、ボロは横を向いた。
「泉が戻ったのでな」
彼はぼそぼそ言った。
「力が戻ると、大きさは変えられる」
「いつからですか」 「……北から帰った頃には」
村中がざわめいた。
「じゃあ、なんで大きいままだったんですか」
俺が聞くと、ボロは長いこと黙っていた。
「――大きいほうが、頼られる」
彼は言った。
ティナが吹き出した。
ソナが声を上げて笑って、ミカが久しぶりに笑って、それを見たティナがまた笑って、収拾がつかなくなった。
ボロは毛を逆立てた。
「笑うな! 我は神獣ぞ!」
小さい神獣が、井戸端で吠えていた。
俺は、その日初めて、村がまた騒がしくなったと思った。




