徴発
王国軍が来たのは、その四日後だった。
騎馬が十二騎、荷馬車が六台。
先頭の将校は若く、鎧が新しく、そして疲れていた。
「王国軍第二補給隊である」
彼は馬上から言った。
「戦時徴発令に基づき、当集落の食料および燃料を接収する」
村の広場に、百四十人が集まっていた。
その全員が、荷馬車を見ていた。
「――徴発の対象は」
リディアが前に出た。
「食料の全量、および黒炭の全量」
将校は言った。
「代価は、戦後に国庫から支払われる」
「戦後、というのは」 「戦が終わった後だ」
彼は言った。
「それ以上のことは、私も知らん」
■
リディアが帳簿を開いた。
「現在、当集落の人口は百四十二名です」
彼女は言った。
「そのうち百二十九名は、国境方面からの避難民です」
将校の顔が、わずかに動いた。
「食料の全量を徴発された場合、この百四十二名は三日で飢えます」
リディアは言った。
「戦時徴発令、第五条。徴発は、当該地の住民の生存を害しない範囲で行うものとする」
彼女は言った。
「――全量徴発は、違法です」
将校は舌打ちした。
「では、半量だ」
「半量でも、二十日で尽きます」 「二十日あれば十分だろう」 「何がですか」
リディアは聞いた。
将校は答えられなかった。
「あなたは、二十日後に戦が終わると保証できますか」
彼女は言った。
「保証できないなら、それは『生存を害しない範囲』の判断ではありません」
■
将校が、馬から降りた。
「――嬢ちゃん」
彼は言った。
「俺は、六つの村を回ってきた」
彼は言った。
「どの村でも、同じことを言われた。『食えなくなる』と。全部本当だ」
彼は言った。
「だが、俺が食料を集めなければ、国境の一万二千人が飢える」
彼は言った。
「一万二千人が崩れたら、次に飢えるのはこの村だ」
彼は疲れた顔で言った。
「――俺も、選んでるんだよ」
俺は、その言葉を聞いて、セリアを見た。
彼女は広場の端に立っていた。
顔が白かった。
三百人の列の前に立って、三人を選んできた人間の顔だった。
「――選ばなくていい方法があります」
セリアが言った。
将校が振り返った。
「なんだと」 「食料は、渡します」
彼女は言った。
「その代わり、条件をつけます」
■
セリアが提示したのは、三つだった。
「ひとつ。食料は半量ではなく、四割渡します。ただし、黒炭は全量渡します」
彼女は言った。
「黒炭は、この村でしか出ません。炭より三倍持ちます。冬の陣地で、これは食料と同じ価値があります」
将校が息を呑んだ。
「ふたつ。この村を、負傷兵の後送先に指定してください」
セリアは言った。
「街道沿いで、井戸があって、屋根が三十軒あって、手当てのできる人間が十四人います」
彼女は言った。
「国境から歩いて十二日。荷馬車なら八日。今、負傷兵はどこに送られていますか」
将校は答えた。
「……領都だ。十六日かかる」
「その間に何割が死にますか」 「――半分だ」
「ここなら八日です」
セリアは言った。
「みっつ。後送先に指定されれば、この村には軍の補給が回ります」
彼女は言った。
「四割渡した食料が、戻ってきます」
将校は、長いこと黙っていた。
そして、こう言った。
「……嬢ちゃん、あんた何者だ」 「聖女です」
セリアは言った。
「三回に一回、失敗します」
■
荷馬車が黒炭を積み込んでいるとき、街道の方向から、一騎が駆けてきた。
馬から飛び降りた男は、金髪で、左足をわずかに引きずっていた。
「――ノア!」
カイルだった。
鎧は泥だらけで、顔に切り傷があった。
「無事か」 「無事です」 「村は」 「百四十二人います」
カイルは村を見回して、それから、口を開けたまま固まった。
「……増えてるな」 「増えました」
彼は笑おうとして、失敗した。
「ノア。時間がない」
彼は言った。
「第四砦が落ちた。昨日だ」
彼は言った。
「帝国の先鋒が、街道を南下してる」
カイルは俺の肩を掴んだ。
「――四日で、ここに来る」




