捨てられた兵
敗残兵が来たのは、三十日目だった。
街道の方向から、十七人が歩いてきた。
全員、王国軍の鎧を着ていた。
ただし、その鎧はどれも半分しか残っていなくて、武器を持っている者は四人しかいなかった。
先頭の男が、村の入口で膝をついた。
「――水を」
彼が顔を上げたとき、ドルグが息を呑んだ。
「フラン」
髭の隊長だった。
左腕が、肘から下がなかった。
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ティナとセリアが、十七人を施療所に運んだ。
フランの腕は、切断されてから五日経っていて、断面は焼いて止血してあった。
「――誰がやった」
ドルグが聞いた。
「俺だ」
フランは答えた。
「自分で焼いた。他にいなかった」
彼は寝台の上で天井を見ていた。
「第四管区守備隊、二百三十人。国境の第三砦に入った」
彼は言った。
「三日で落ちた」
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その夜、フランが話したことは、俺たちの想像とは違っていた。
「帝国の兵は、強くない」
彼は言った。
「一対一なら、うちの兵のほうが強い。俺はそう思ってる」
「じゃあ、なんで三日で」
ドルグが聞いた。
「――途切れないんだ」
フランは言った。
「うちは、三時間戦うと交代する。交代した兵は飯を食って寝る。当たり前だ」
彼は言った。
「向こうは、途切れない。同じ強さで、丸三日、途切れなかった」
俺は聞いた。
「交代してないんですか」 「してる。してるが――交代の瞬間が、ない」
フランは言った。
「壁を押してるとする。押してる奴が疲れて、下がる。その瞬間、壁が少し戻る。そこを突く。それが戦だ」
彼は言った。
「向こうは、戻らなかった」
彼は言った。
「三日間、一度も」
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「補給は」
リディアが聞いた。
「見えなかった」
フランは答えた。
「荷馬車がなかった。炊煙も上がらなかった」
彼は言った。
「三日間、飯を食ってる様子がなかった」
部屋が、静まった。
ゼロが、口を開いた。
「――質問しても、いいですか」
彼女は言った。
「帝国兵の中に、駆動音のする者はいましたか」
フランが顔を上げた。
「駆動音」 「金属が擦れる音です。規則的で、心拍とは異なります」
ゼロは言った。
「甲冑の音とは、周期が違います」
フランは、しばらく考えていた。
そして、青ざめた。
「――いた」
彼は言った。
「二列目だ。二列目の連中が、音を立ててた。鎧の音だと思ってた」
彼は言った。
「そいつらは、一度も声を出さなかった」
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その夜、俺は施療所の外でゼロと立っていた。
「ゼロ」 「はい」 「あなたと同じものが、いるんですか」
彼女は答えなかった。
しばらく星を見ていて、それから、平坦な声で言った。
「私の型式は、五十年前のものです」
彼女は言った。
「五十年前、この国には自動人形が十七体ありました。すべて、三百年前の遺物の技術を復元したものです。復元には失敗し、十七体のうち十四体が十年以内に停止しました」
彼女は言った。
「私は、その三体目の生き残りです」
ゼロは自分の右手を見た。
「もし帝国が同型機を運用しているなら、彼らは復元に成功しています」
彼女は言った。
「――五十年で、成功しています」
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翌朝、フランが俺を呼んだ。
「ノア」
彼は寝台の上で言った。
「十七人、置いてってくれ」
彼は言った。
「俺の隊の生き残りだ。腕が動く奴が九人いる。使ってくれ」
「フランさんは」 「俺は腕がない」
彼は言った。
「軍に戻っても、除隊だ。除隊された兵は、恩給も出ずに放り出される」
彼は天井を見た。
「――俺は、捨てられる側になった」
俺は少し考えて、それから聞いた。
「フランさん。認可状を運んできたとき、あなた、歩いて谷を上がってきましたよね」 「……ああ」 「なんで馬に乗らなかったんですか」
フランは、しばらく答えなかった。
「――見たかったんだ」
彼は言った。
「三年前に俺が見捨てた村が、どうなってるのか」
彼は言った。
「馬だと、速すぎる」
俺は帳面を開いた。
「フラン・ヴォス」
俺は書いた。
「前職、第四管区守備隊長。できること――」
俺は顔を上げた。
「なんですか」
フランは、右手で顔を覆った。
「……人を、並ばせるのは、得意だ」




