↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/71

街道沿い

手紙を読み上げたのは、リディアだった。

 村の広場に二十二人が集まって、誰も座らなかった。

「――帝国が動いた。国境の三つの砦が落ちた」

 彼女が読み終えると、しばらく誰も口をきかなかった。

 最初に喋ったのはカル爺さんだった。

「三つ落ちたなら、四つ目も落ちる」

 老人は荷車の上から言った。

「わしは若い頃、前の戦を見た。砦ってのは、一つ落ちると連鎖する。守り手が『次も落ちる』と思うからだ」

 彼は俺を見た。

「小僧。ここは、国境から何日だ」

 リディアが即答した。

「街道を通って、騎馬で六日。歩兵で十二日です」

「十二日か」

 カル爺さんは目を閉じた。

「――逃げるなら、今だな」

   ■

「逃げましょう」

 最初にそう言ったのは、意外にもドルグだった。

「俺は騎士団にいた。戦の前に何が起きるかは知ってる」

 彼は言った。

「まず難民が来る。次に敗残兵が来る。その次に、味方の軍が来て、食い物を全部持っていく」

 ドルグは村を見回した。

「そして最後に、敵が来る」

 彼は言った。

「街道沿いってのは、そういう場所だ」

「どこへ逃げますか」

 リディアが聞いた。

「西だ。街道から離れて、山を二つ越えれば」 「二十二人で、ですか」

 彼女は帳簿を開いた。

「カルさんは歩けません。ミルクさんは肺をやられています。子供が六人、老人が四人。冬が近い」

 彼女は言った。

「山越えの途中で、何人か死にます」

 ドルグが黙った。

「そして、逃げた先に村はありません。空き家もありません。冬を越す食料もありません」

 リディアは言った。

「私たちが冬を越せるのは、ここだけです」

   ■

 俺は、村を見ていた。

 畑がある。井戸がある。水車が回っている。鍛冶場から煙が出ている。ソナが張った音の板の白い木肌が、家の壁で光っている。

 全部、拾ったものだ。

 一年半かけて拾って、直して、繋いだものだ。

「――残ります」

 俺は言った。

 全員が振り返った。

「ただし、条件をつけます」

 俺は言った。

「歩けない人と、子供と、老人は、逃がします。宿場町の先の、西の農村まで」

 俺は言った。

「リディアさん、そこに家を借りられますか」 「借りられます。金貨二枚あれば、冬を越せる家を三軒」 「借りてください」

 俺は言った。

「残るのは、動ける人だけです。俺は残ります。残る人は、自分で決めてください」

   ■

「わし は残る」

 最初に手を挙げたのは、カル爺さんだった。

「爺さん、歩けないでしょう」

 トビーが言った。

「歩けんが、喋れる」

 老人は言った。

「水路のどこが弱いか、どの家の屋根が抜けるか、雪がどっちから来るか。四十年ぶんある」

 彼は言った。

「戦になったら、それが要る」

 俺は反論しかけて、やめた。

 この人が正しかった。

「――トビーくんは行ってください」 「やだ」

 彼は即答した。

「弟は行かせる。俺は残る」

 トビーは俺を睨んだ。

「三年前、俺は逃げた。もう逃げねえ」

   ■

 結局、村を出たのは九人だった。

 子供五人、老人二人、ミルク夫妻。

 ミルクの奥さんは最後まで残ると言い張って、旦那が咳き込んで倒れたことで、ようやく折れた。

 彼女は荷馬車の上から、俺に向かって叫んだ。

「村を、頼みます!」

 俺は頭を下げた。

「――ノアさん!」

 彼女はもう一度叫んだ。

「うちの家、十一番です! 覚えててください!」

 俺は帳面を掲げた。

「書いてあります!」

   ■

 荷馬車が谷を出ていったあと、残ったのは十三人だった。

 ノア、ティナ、ミカ、ドルグ、リディア、ゼロ、セリア、ソナ、カル、トビー、ロブ、そして移住してきた男が二人。

 狼が三匹。剣が一振り。

「――少ないですね」

 俺が言うと、ドルグが鼻を鳴らした。

「一年半前は四人だったろう」

 彼は言った。

「三倍だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。