列
巡行の一行は、領都を出て東へ向かった。
聖女が三人、司祭が二人、護衛が八人、荷馬車が三台。
俺たちは荷馬車の後ろについて歩いた。荷物持ちと従者という扱いだった。
聖女は、セリアの他に二人いた。
一人は二十代半ばの女性で、リタといった。落ち着いていて、口数が少ない。
もう一人は、十三歳の少女だった。名前をミレイユといって、まだ巡行が二度目だという。
彼女は馬車の中で、ずっと外を見ていた。
目が、やたらと明るかった。
■
最初の館は、三日目に着いた。
東の男爵領の館で、門の前には、すでに列ができていた。
俺は数えようとして、途中でやめた。
二百人はいた。
地面に直接寝かされている人が何十人もいて、その脇に家族が座っていて、誰も喋っていなかった。
喋る体力がないのだ。
列の脇に、司祭が立っていた。彼は名簿を持っていて、順番に名前を書き込んでいた。
「――献金額順ですか」
リディアが小声で聞いた。
「そう」
セリアが答えた。
彼女の顔は、青かった。
「上の三十人は、この領地の商人と地主。あとの百七十人は、順番が来ることはない」
彼女は言った。
「聖女が三人いるから、今日治せるのは九人」
■
その日、俺は列の後ろのほうを歩いた。
荷物持ちだったので、水を配る役をもらった。
列の後ろは、ひどかった。
高熱で意識がない子供がいた。腕が腐りかけている老人がいた。腹が異様に膨れた女性がいた。
その全員が、順番が来ないことを知っていた。
知っていて、それでも並んでいた。
「――なんで並ぶんですか」
俺は思わず、老人の家族らしい男に聞いてしまった。
男はしばらく俺を見て、それから言った。
「並ばなかったら、諦めたことになる」
彼は言った。
「並んでれば、まだ諦めてないことになるでしょう」
■
夕方、館の前の広場で、九人が治された。
セリアは三人を治した。
三人目のとき、彼女の詠唱が途中で止まって、司祭が舌打ちをした。
彼女は二度目でやり直して、成功させた。
治された商人は立ち上がって、司祭に礼を言い、司祭は献金の額を確認した。
セリアには、誰も礼を言わなかった。
彼女は広場の隅で、地面に座り込んでいた。
俺が水を持っていくと、彼女は受け取らずに、こう言った。
「――ノア、見た?」 「はい」 「あの列」 「見ました」
俺は隣に座った。
「三年前と、同じ」
セリアは言った。
「同じなの。何ひとつ変わってない」
彼女は膝に顔を埋めた。
「わたしがいなくても、あの列はできるの。わたしがいてもいなくても、百七十人は治らないの」
彼女は言った。
「じゃあ、わたし、なんのためにいるの」
■
その夜、俺は眠れなかった。
宿舎の外に出ると、ティナが井戸端に座っていた。
彼女の膝の上に、木の板が何枚も乗っていた。
「何してるんですか」 「添え木、作ってます」
ティナは言った。
「昼間、列を見て回ったんです。骨折してる人、十四人いました」
彼女は木を削っていた。
「骨折って、治癒魔法じゃなくても治るんです。添え木を当てて、動かさないで、六週間待てば」
彼女は言った。
「でも、みんな添え木を当ててないんです。当て方を知らないから」
ティナは手を止めた。
「――ノアさん、わたし、教会にいたとき、包帯を巻くのは『下働きの仕事』って言われてました」
彼女は言った。
「聖女は治癒をするもので、包帯を巻くのは適性のない子がやることだって」
彼女は木の削りかすを払った。
「わたし、十一年、それをやってました」
ティナは顔を上げた。
「わたし、十四人ぶんの添え木、作れます」
■
翌朝、俺たちは列の後ろで、それを始めた。
ティナが骨折した人に添え木を当て、俺が包帯を巻き、ゼロが水を運び、リディアが名簿を作った。
治癒ではない。
治すのではなく、体が自分で治るまで、支えるだけだ。
最初、誰も俺たちを相手にしなかった。
列の人々は、聖女を待っていた。荷物持ちと従者に何ができるとも思っていなかった。
三人目まで、俺たちは黙ってやった。
四人目で、列の脇から声が上がった。
「――うちの婆さんも、腕が」
五人目からは、列ができた。
昼までに、三十人を診た。
骨折が十四人、傷の化膿が九人、他は熱と衰弱だった。
化膿した傷は、ティナが洗って、煮沸した布を当てた。
熱の人には、水を飲ませて、日陰に移した。
それだけだった。
それだけのことを、誰もやっていなかった。
「――何をしている」
昼過ぎ、司祭が飛んできた。
「聖女の巡行に、勝手なことをするな」
彼は顔を真っ赤にしていた。
「誰の許可を得ている」
俺が答える前に、リディアが名簿を差し出した。
「本日の処置記録です」
彼女は言った。
「骨折十四件、化膿九件、脱水七件。すべて非魔法的処置です。教会法上、非魔法的処置は聖務に該当しません」
彼女は眼鏡を押し上げた。
「――許可は、不要です」




