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祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


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弟

霊峰の泉は、頂上の少し下、岩に囲まれた窪地にあった。

 着いた瞬間、俺は何も言えなくなった。

 窪地の底に、水があった。

 ただし、俺の手のひらほどの水たまりだった。

 周りの岩には、水位の跡が輪になって残っていて、いちばん高い跡は、俺の腰の高さにあった。

 三年で、腰の高さから手のひらまで減っていた。

「――遅い」

 声がした。

 窪地の縁に、狼が立っていた。

 ボロと同じくらいの大きさで、しかし毛は灰色のままで、銀色ではなかった。

 目つきが、ボロによく似ていた。

「三年だ、兄者」

 ガルドは言った。

「三年、待った」

   ■

 ボロが窪地を降りていった。

 二頭は、水たまりを挟んで向き合った。

 その周りに、いつのまにか狼が集まっていた。二十頭ほどいた。どれも痩せていた。

「ガルド」

 ボロが言った。

「泉は、まだ細るか」 「細る」

 ガルドは答えた。

「一日に、指の幅ほど」

 彼は水たまりを見た。

「あと三月で、涸れる」

「その間、誰が泉のそばにいた」 「俺だ」

 ガルドは言った。

「三年、俺がいた。夏も冬も、ここにいた」

 彼の毛並みを、俺は改めて見た。

 痩せていた。腹が凹んでいて、肋が浮いていた。

 群れの中で、いちばん痩せているのは、長だった。

「……効かぬのか」

 ボロが言った。

「効かぬ」

 ガルドは答えた。

「俺がいても、泉は細る」

 彼は初めて、声を荒らげた。

「なぜだ、兄者! なぜ兄者がいたときは湧いて、俺がいると細る!」

 ガルドが吠えた。

「俺は三年、ここを離れていない! 獲物も食わずに! 群れが飢えても! 俺はここにいた!」

 彼は震えていた。

「兄者を落として、俺が代わりを務めれば、山は戻ると思った!」

 ――そこで、俺は理解した。

 この狼は、兄を追い出したのではない。

 兄の代わりに、死ぬつもりだったのだ。

   ■

「ガルド」

 ボロが静かに言った。

「お前は、我を落とした日、泣いていたそうだな」

 ガルドの動きが止まった。

「……誰が」 「山の娘だ」

 ボロが振り返った。

 窪地の縁で、ソナが耳覆いを外して立っていた。

「聞こえたって」

 彼女は言った。

「三年前の夜。あなた、一人になってから、ずっと泣いてた。『兄者、すまん』って、何回も」

 狼たちが、一斉にガルドを見た。

 ガルドは、何も言わなかった。

 言えなかったのだと思う。

「――ガルド」

 ボロが言った。

「我は、お前を恨んでおらぬ」

 彼は言った。

「だが、許してもおらぬ」

 ボロは水たまりのそばまで歩いた。

「なぜなら、お前は間違えたからだ」

 彼は言った。

「泉が細ったのは、我が老いたからではない。お前が足りぬからでもない」

 ボロは水たまりを覗き込んだ。

「――泉は、我らのせいで細ったのではない」

   ■

 俺は窪地を降りて、水たまりのそばにしゃがんだ。

 水は澄んでいた。濁ってはいない。

 俺は手を入れた。

 冷たかった。ただの水だった。

 それから、俺は底を触った。

 岩ではなかった。

 ――砂利だった。

「ドルグさん」

 俺は呼んだ。

「ここ、底に砂利が溜まってます」

 ドルグが降りてきて、水たまりに手を突っ込んで、しばらく探ってから、顔を上げた。

「……坊主」

 彼の声が、低かった。

「これ、湧き口が埋まってる」

 彼は砂利を掬い上げた。

「湧き水ってのはな、岩の割れ目から出る。割れ目に砂利や泥が詰まると、水は出口を失って、別のところに逃げる」

 ドルグは掬った砂利を見せた。

 角が丸くなった、川の砂利だった。

「三年前、この上で崩れがあったな」

 彼は岩壁を見上げた。

 窪地の上の斜面に、崩れた跡があった。三年ぶんの草が生えていたが、地形が明らかにえぐれていた。

「崩れた土砂が、少しずつ流れ込んで、湧き口を塞いだ」

 ドルグは言った。

「――それだけだ」

   ■

 狼たちが、ざわめいた。

 ガルドが、窪地に降りてきた。

「それだけ、だと」

 彼は掠れた声で言った。

「三年、俺がここにいたのは」

「関係なかった」

 ドルグは容赦なく言った。

「お前が飢えたのも、兄貴が落ちたのも、全部、関係なかった」

 ガルドが、崩れ落ちた。

 ボロが、その隣に立った。

「――ガルド」

 彼は言った。

「我も、七日七晩、無駄に立っておった」

 彼は言った。

「兄弟そろって、間抜けだ」

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