↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/73

間引き

「そのとおりだ」

 アルドリックは、否定しなかった。

「一年前、私はお前を要らないと言った。教会の食い扶持を減らすなとも言った」

 彼はティナを見た。

「今も、同じことを言う」

 俺は前に出た。

 出てから、何を言うつもりだったのか自分でもわからなくなった。

「――君は」

 アルドリックが、俺を見た。

「ノア・ガラットだな。ロスタ集落の代表」

 彼は椅子を勧めるでもなく、そのまま話し続けた。

「君に、ひとつ数字を教えよう」

 老人は指を組んだ。

「この国の教会は、年間、およそ四万人を養っている。孤児、病人、老人、身寄りのない者。そのために使う金は、金貨で四千枚だ」

 彼は淡々と続けた。

「教会に入る献金は、年間、金貨で三千二百枚。足りない八百枚は、領主からの補助と、聖女の巡行によって埋める」

「聖女の巡行、というのは」 「病を治す旅だ。金を出す領主の館を回り、病人を治す。治せば献金が集まる」

 アルドリックは言った。

「治癒ができない聖女は、この計算に一銭も貢献しない。むしろ、食う」

 彼はティナを見た。

「十一年、お前を養うために使った金は、金貨でおよそ四枚。四枚あれば、孤児が十二人、一年生きる」

 ティナの顔が、真っ白になった。

「――やめてください」

 俺は言った。

「やめない」

 アルドリックは首を振った。

「これは事実だ。事実を言わずに人を捨てるのは、卑怯だ。私は卑怯なことはしない」

 彼は俺を見た。

「私は間引く。四万人を生かすために、生かせない者を切る。それが私の仕事だ」

 老人の目には、迷いがまったくなかった。

「憎んでいるのではない。恨みもない。私は、算術をしている」

   ■

 俺は、口の中が乾いていくのを感じていた。

 この人は、アルバンとは違う。

 アルバンは書式に隠れていた。この人は、隠れていない。

「――じゃあ、なんで今さら呼んだんですか」

 俺は聞いた。

「一年前に切ったなら、放っておけばよかったじゃないですか」

「そこだ」

 アルドリックは頷いた。

「私が切った娘が、教会の外で、割れた器を直している」

 彼は言った。

「もしそれが本物なら、私の算術は間違っていたことになる」

 老人は初めて、わずかに目を細めた。

「私は四十年、間引き続けてきた。私が切った者は、千人を超える」

 彼はティナを見た。

「そのうちの一人が、私の外で花を咲かせたなら――残る九百九十九人はどうなる」

 部屋が、静まりかえった。

「私は、それを確かめに来た」

   ■

 ティナは、動けなかった。

 俺は彼女の前に立った。

「アルドリックさん」 「なんだね」 「ひとつ、いいですか」

 俺は言った。

「あなた、九百九十九人のことを、覚えてるんですか」

 老人の目が、初めて動いた。

「――なんだと」 「千人切ったって言いましたよね。じゃあ、その千人の名前、言えますか」

 俺は続けた。

「俺、村の家を十九軒、全部誰の家か知ってます。トビーくんが教えてくれたので。ミルクさんち、ハンナ婆ちゃんち、ロブさんち」

 俺は指を折った。

「ハンナ婆ちゃんは、領都の救貧院で去年の冬に死にました。八十三歳でした」

 アルドリックは、何も言わなかった。

「救貧院、あなたの管轄ですよね」

 俺は言った。

「あなたが養った四万人の中に、ハンナさんが入ってます。数字だと『一』です」

 俺は老人を見上げた。

「でも、トビーくんにとっては、ハンナ婆ちゃんです」

 長い沈黙があった。

 アルドリックは、俺をじっと見ていた。

 やがて、彼は言った。

「――君は、私が四十年前に切り捨てた考え方をしている」

 その声には、初めて、わずかな感情があった。

 それが何の感情なのかは、俺にはわからなかった。

「予備審問は明日、第三聖堂で行う」

 彼は背を向けた。

「ティナ・アルベール。お前は今夜、聖堂内に留め置かれる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。