↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/72

ロスタ集落、認可

認可状が届いたのは、それから九日後の朝だった。

 運んできたのは、あの髭の隊長――フランで、彼は今度は一人で、馬にも乗らずに、歩いて谷を上ってきた。

 広場に立った彼は、巻紙を広げて、大声で読み上げた。

「王国暦八六二年、辺境伯領第四管区。ロスタ集落の再興を認可する」

 声が谷に反響した。

「人口十五名。特産、黒炭。年間納税額、銀貨四十枚。集落代表、ノア・ガラット」

 ――俺の名前が、書類に載った。

 三年間、パーティーの名簿にすら載っていなかった名前が。

 フランは巻紙を巻き戻して、俺に差し出した。

「持ってけ」

 俺が受け取ろうとした瞬間、後ろでティナが叫んだ。

 その叫び声を合図にしたみたいに、村中が爆発した。

 トビーと弟たちが走り回って、ミカが金槌で金床を叩きまくって、ロブが顔を覆って、ミルクの奥さんが泣き出して、セリアがそれを抱きしめて、カル爺さんが荷車の上で「馬鹿もんが、馬鹿もんが」と繰り返して、ドルグが空を仰いで、リディアが眼鏡を外して長いこと拭いていた。

 ゼロは、その真ん中に立っていた。

 彼女だけが、何が起きているのかわからない、という顔をしていた。

 俺は彼女のところへ行った。

「ゼロ」 「はい」 「認可、下りました」 「記録しました」

 彼女は言った。

「本件において、私の記録が寄与した割合は、算出できません」

 俺は少し笑った。

「ゼロがいなかったら、勝ててないです」 「……理解できません」

 彼女は言った。

「私は、記録しただけです。私は、何も、していません」

 俺は認可状を彼女に見せた。

「五十年前、あなたに『掘っているふりをしろ』って言った人がいます」 「はい」 「その嘘が、今日、ばれました」

 俺は言った。

「五十年かかりましたけど、ばれました。ばれたのは、あなたが覚えていたからです」

 ゼロは、認可状を見ていた。

 しばらく、じっと見ていた。

 それから、彼女は自分の右手を持ち上げた。

 継ぎ目の残る、五本指の手を。

 指を、一本ずつ、ゆっくり曲げた。

「……ノア」 「はい」 「胸部の駆動音が、規定値を超えています」

 彼女は言った。

「異常ではありません。故障でもありません。ですが、静止できません」

 俺は待った。

 ゼロは、しばらく言葉を探して、それから、初めて、こう言った。

「……たぶん、これは、うれしい、です」

   ■

 その夜の宴は、村始まって以来の規模になった。

 といっても十五人と一匹と一振りなので、大したものではない。

 それでも猪が二頭潰れて、黒炭の炉で焼いた芋が山になって、カル爺さんが「野草は苦いのが旨い」と言い張って、トビーが採ってきた苦い野草を全員が我慢して食った。

 ボロは猪の骨を三本咥えて、誰にも渡さなかった。

 毛は、尻尾の先まで銀色になっていた。

 体は、もう小型犬とは言えない大きさで、ティナがもたれかかっても平気で座っている。

「小僧」 「ボロです」 「ボロだ。……小僧」

 彼は骨を置いて、俺を見上げた。

「我を捨てた群れは、今も北の霊峰におる」 「はい」 「いつか、行くぞ」 「はい」

 俺は答えた。

「一緒に行きます」

 ボロは、ふん、と鼻を鳴らして、また骨を咥えた。

 その尻尾が、地面を一度だけ叩いた。

   ■

 夜更けに、俺は認可状を持って、村の入口に立った。

 三十日前、ここに六騎の馬が来た。

 半年前、ここには誰もいなかった。

 半年と少し前、俺は迷宮の三十二階層で、荷物を下ろしかけた手を止めていた。

「ノア」

 鞘の中から、エルの声がした。

「腰の座りが悪い。傾いている」 「そうですか」 「そうだ。……嬉しいと、人は傾く」

 俺は笑って、認可状を丸めた。

 ――そのとき。

 街道の方向から、鐘の音が聞こえた。

 夜に鳴る鐘ではなかった。

 三つ、間を置いて三つ、また三つ。

 教会の、招集の鐘だった。

「……セリアさん」

 俺が振り返ると、いつの間にか背後に立っていたセリアの顔から、血の気が引いていた。

「この鳴らし方」

 彼女の声が震えていた。

「――『異端審問』の鐘よ」

 谷の入口に、松明の列が現れた。

 一列に並んだ、白い法衣の一団だった。

 その先頭に立った男が、こちらを見て、静かに言った。

「――ティナ・アルベールを、返していただきます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。