ロスタ集落、認可
認可状が届いたのは、それから九日後の朝だった。
運んできたのは、あの髭の隊長――フランで、彼は今度は一人で、馬にも乗らずに、歩いて谷を上ってきた。
広場に立った彼は、巻紙を広げて、大声で読み上げた。
「王国暦八六二年、辺境伯領第四管区。ロスタ集落の再興を認可する」
声が谷に反響した。
「人口十五名。特産、黒炭。年間納税額、銀貨四十枚。集落代表、ノア・ガラット」
――俺の名前が、書類に載った。
三年間、パーティーの名簿にすら載っていなかった名前が。
フランは巻紙を巻き戻して、俺に差し出した。
「持ってけ」
俺が受け取ろうとした瞬間、後ろでティナが叫んだ。
その叫び声を合図にしたみたいに、村中が爆発した。
トビーと弟たちが走り回って、ミカが金槌で金床を叩きまくって、ロブが顔を覆って、ミルクの奥さんが泣き出して、セリアがそれを抱きしめて、カル爺さんが荷車の上で「馬鹿もんが、馬鹿もんが」と繰り返して、ドルグが空を仰いで、リディアが眼鏡を外して長いこと拭いていた。
ゼロは、その真ん中に立っていた。
彼女だけが、何が起きているのかわからない、という顔をしていた。
俺は彼女のところへ行った。
「ゼロ」 「はい」 「認可、下りました」 「記録しました」
彼女は言った。
「本件において、私の記録が寄与した割合は、算出できません」
俺は少し笑った。
「ゼロがいなかったら、勝ててないです」 「……理解できません」
彼女は言った。
「私は、記録しただけです。私は、何も、していません」
俺は認可状を彼女に見せた。
「五十年前、あなたに『掘っているふりをしろ』って言った人がいます」 「はい」 「その嘘が、今日、ばれました」
俺は言った。
「五十年かかりましたけど、ばれました。ばれたのは、あなたが覚えていたからです」
ゼロは、認可状を見ていた。
しばらく、じっと見ていた。
それから、彼女は自分の右手を持ち上げた。
継ぎ目の残る、五本指の手を。
指を、一本ずつ、ゆっくり曲げた。
「……ノア」 「はい」 「胸部の駆動音が、規定値を超えています」
彼女は言った。
「異常ではありません。故障でもありません。ですが、静止できません」
俺は待った。
ゼロは、しばらく言葉を探して、それから、初めて、こう言った。
「……たぶん、これは、うれしい、です」
■
その夜の宴は、村始まって以来の規模になった。
といっても十五人と一匹と一振りなので、大したものではない。
それでも猪が二頭潰れて、黒炭の炉で焼いた芋が山になって、カル爺さんが「野草は苦いのが旨い」と言い張って、トビーが採ってきた苦い野草を全員が我慢して食った。
ボロは猪の骨を三本咥えて、誰にも渡さなかった。
毛は、尻尾の先まで銀色になっていた。
体は、もう小型犬とは言えない大きさで、ティナがもたれかかっても平気で座っている。
「小僧」 「ボロです」 「ボロだ。……小僧」
彼は骨を置いて、俺を見上げた。
「我を捨てた群れは、今も北の霊峰におる」 「はい」 「いつか、行くぞ」 「はい」
俺は答えた。
「一緒に行きます」
ボロは、ふん、と鼻を鳴らして、また骨を咥えた。
その尻尾が、地面を一度だけ叩いた。
■
夜更けに、俺は認可状を持って、村の入口に立った。
三十日前、ここに六騎の馬が来た。
半年前、ここには誰もいなかった。
半年と少し前、俺は迷宮の三十二階層で、荷物を下ろしかけた手を止めていた。
「ノア」
鞘の中から、エルの声がした。
「腰の座りが悪い。傾いている」 「そうですか」 「そうだ。……嬉しいと、人は傾く」
俺は笑って、認可状を丸めた。
――そのとき。
街道の方向から、鐘の音が聞こえた。
夜に鳴る鐘ではなかった。
三つ、間を置いて三つ、また三つ。
教会の、招集の鐘だった。
「……セリアさん」
俺が振り返ると、いつの間にか背後に立っていたセリアの顔から、血の気が引いていた。
「この鳴らし方」
彼女の声が震えていた。
「――『異端審問』の鐘よ」
谷の入口に、松明の列が現れた。
一列に並んだ、白い法衣の一団だった。
その先頭に立った男が、こちらを見て、静かに言った。
「――ティナ・アルベールを、返していただきます」




