↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/71

書式は、殴っても壊れない

上申書は、七日後に提出された。

 中身は徹底的に事務的で、告発の言葉はひとつも入っていなかった。

 ロスタ集落再興申請に関連して、当該地に隣接する閉山坑道の権利関係を確認したい。ついては、第四管区閉山坑道記録番号八一二の七の閲覧を請求する。

 それだけだった。

 リディアはその上申書を、三通作った。

 一通は第四管区管理課へ。

 一通は領都の商業ギルドへ。

 そして一通を――冒険者ギルドへ。

「なぜギルドに」

 俺が聞くと、彼女は淡々と答えた。

「ロスタの調査依頼を出したのはギルドです。ギルドには『依頼の結果として発見された事実』を記録する義務があります」

 彼女は書類を封じた。

「あなたの報告書は、すでにギルドの記録に入っています。ギルド長は、あれを『この十年で最良の調査報告』と評価して、報酬に色をつけました」

 リディアは俺を見た。

「つまり、ギルドは既に、あなたの報告を信用したという記録を残しています」

   ■

 十二日後、閲覧請求は却下された。

 却下の理由書には、こう書かれていた。

 『当該記録は永年保存文書であり、一般の閲覧に供さない。また、集落再興申請と鉱区記録との関連性が認められない』

 署名は、第四管区管理課長アルバン。

 リディアはその理由書を受け取って、三回読んで、それから、静かに言った。

「――勝ちました」

「え?」

 ティナが聞き返した。

「『関連性が認められない』と書いてしまいました」

 彼女は理由書を掲げた。

「アルバンさんは、集落の隣接地の権利関係が、集落認可と無関係だと、自分の署名で断言しました」

 リディアは次の書類を取り出した。

「一方、グラス商会の鉱区申請には、こう書かれています。『当該鉱区は無人の王領内にあり、周辺集落は存在しない』」

 彼女は二枚の紙を並べた。

「片方は『集落と鉱区は無関係』と言い、もう片方は『集落がないこと』を申請の根拠にしています」

 彼女は眼鏡を押し上げた。

「――無関係なら、集落の有無は根拠にできません」

   ■

 三通の上申書のうち、動いたのは商業ギルドだった。

 彼らはグラス商会の競争相手に、この矛盾を売った。

 競争相手はそれを買って、産業課に異議を申し立てた。

 異議申し立ては産業課の審査を止め、審査が止まると、払い下げの期日が飛んだ。

 そして期日が飛んだ瞬間、グラス商会にとって、この案件は「急ぐ理由のない案件」になった。

 急ぐ理由がなくなると、顧問料を払う理由もなくなる。

 アルバンは、二十日後に管理課長の職を解かれた。

 罪に問われたわけではなかった。

 書式の不備を三件指摘され、監督責任を問われ、閑職に移されただけだった。

 その処分の書類は、三行しかなかったという。

「――これで、終わりですか」

 俺が聞くと、リディアは首を振った。

「終わりではありません。ですが、あの人は、あの人が信じていたものに負けました」

 彼女は言った。

「書式は、殴っても壊れません。ですが、書式に殺されることはあります」

   ■

 俺はその話を聞いて、少しだけ、後味の悪さを覚えた。

 夜、井戸端でぼんやりしていたら、ドルグが隣に座った。

「坊主。喜べてねえな」 「はい」 「なんでだ」

 俺は少し考えた。

「あの人、一度も嘘をついてないんです」

 俺は言った。

「様式が違うって言ったのも本当だし、運用があるって言ったのも本当だし、閲覧を断ったのも権限の範囲です。……たぶん、あの人はずっと、そうやって生きてきたんだと思います」

 ドルグは酒を飲まない手で、顎を撫でた。

「三年前、俺はあいつを殴った」 「はい」 「殴って、辺境に飛ばされて、酒に沈んだ」

 彼は空を見上げた。

「今日、俺は殴らなかった。リディアの嬢ちゃんが、殴らずにやった」

 ドルグは息を吐いた。

「――そのほうが、後味が悪いってのは、俺も同意する」

 彼は俺の背中を、ばん、と叩いた。

「だがな、坊主。後味が悪いのは、お前が人を潰したことを潰したと思ってるからだ」

 彼は立ち上がった。

「思っとけ。忘れるより、ずっといい」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。