金髪の男を泊める
翌朝、カイルが井戸端で寝ていたのを見つけたのはティナだった。
悲鳴が村中に響いた。
「知らない人がいます! 金髪の! 顔がいいです!」 「情報の順番がおかしいです」
騒ぎを聞きつけて出てきた面々の反応は、それぞれ違った。
ドルグは腕を組んで、じろりとカイルを見下ろした。
「お前が、坊主を捨てた男か」 「そうだ」 「ふん」
それだけ言って、ドルグは畑に行った。何もしないことで示す種類の男だった。
ミカは金槌を持ったまま近づいて、カイルの腰の剣を見て、鼻で笑った。
「その剣、刃こぼれしてる。研いでない。柄の巻きも緩んでる。あんた、道具のこと何も考えてないでしょ」 「……そうだな」 「認めるんだ」 「認める」
ミカは面白くなさそうな顔で戻っていった。喧嘩を売って買われなかった子供の顔だった。
リディアは事務的だった。
「情報の対価は」 「要らない」 「無償の情報は、いちばん高くつきます」
彼女は眼鏡を押し上げた。
「後日、必ず何かの形で請求されます。私はそういうものを何度も見てきました」 「じゃあ、代わりに一つ頼む」
カイルは頷いた。
「うちの親父の名前は、表に出さないでくれ。潰すなら、アルバンとグラス商会だけにしてほしい」
リディアは彼を見て、それから計算板を弾いた。
「――妥当な取引です」
■
ボロだけが、最後まで態度を変えなかった。
彼はカイルの三歩手前で立ち止まって、毛を逆立てて、低く唸った。
「我は、この男を認めぬ」
背中まで銀色になった毛が朝日に光って、犬ほどだった体は、いつのまにか中型犬を超えていた。
「認めぬぞ。小僧を捨てた匂いがする」
カイルは膝をついて、ボロと目線を合わせた。
「じゃあ、認めるな」
彼は言った。
「認められる筋合いはない」
ボロは唸り続けていたが、やがて、ふん、と鼻を鳴らして、そっぽを向いた。
「……気に食わぬ」
彼は歩き出しながら、ぼそりと言った。
「気に食わぬが、認めぬままでいてやる。認めてしまえば、お前が楽になるだけだ」
カイルは膝をついたまま、しばらく動かなかった。
「……厳しいな」 「神獣なので」
俺が言うと、カイルは声を出して笑った。
■
結局、俺はその日の夕方、カイルの装備を見た。
時間がないと言っておいて見たのは、彼が村を出る前に、剣を鞘に納める手つきを見てしまったからだ。
鞘に入れる前に、彼は布で刃を拭った。
三年間、一度もやらなかった動作だった。
やり方はぎこちなくて、拭く方向が逆で、そのままだと刃の脂が柄のほうへ寄ってしまう。
「――カイルさん」 「なんだ」 「拭くの、逆です」
俺は布を受け取って、切っ先から鍔へ、一方向にすっと引いた。
「こっちです。汚れを刃先に集めないと、鞘の中に残るので」
カイルは、俺の手つきを見ていた。
じっと見ていた。
三年、一度も見なかったものを、初めて見る目だった。
「……もう一回、やってくれるか」
俺はもう一度やった。
彼はそれを覚えて、自分でやって、途中で手が止まって、また俺を見て、やり直した。
三回目でようやく形になった。
「これでいいのか」 「いいです」
俺は剣を返した。
「あと、留め具は毎朝見てください。朝、装備を着けるときに一度、指で全部触るんです。目じゃなくて、指で」
カイルは自分の指を見た。
「三年、お前がやってたのは、それか」 「はい」
彼はしばらく黙って、それから、こう言った。
「――四十日後に、また来る」
彼は松明を拾い上げた。
「認可が下りてなかったら、俺が親父を殴りに行く。下りてたら、金を払って装備を見てもらう」
俺は笑った。
「どっちも歓迎です」




