十五人目
ロブが村に来て、十四人になった。
残り一人が、いちばん遠かった。
トビーが最後に挙げた名前は、ミルク一家だった。
夫婦と娘の三人で、三年前に南の農村へ移り、去年そこを追われて、それから消息が途切れている。
「三人来れば、十七人になります」
リディアが帳簿を叩いた。
「余裕を持って要件を満たせます。ですが、行方がわかりません」
期限まで、あと九日だった。
■
俺は宿場町のギルドに戻って、掲示板の前に立った。
依頼を出すことにしたのだ。
人探しの依頼で、報酬は銀貨五枚。俺たちが出せる限界だった。
依頼票を書いていたら、後ろから声がした。
「――ノア?」
振り返ると、セリアが立っていた。
前より痩せていたが、顔色は前より良かった。
「セリアさん」 「あなた、また村の話?」 「人を探してます。三人」
俺が依頼票を見せると、セリアは名前を読んで、少し目を細めた。
「ミルク……この名前」
彼女は思い出そうとして、それから、はっとした顔になった。
「教会よ」
「え」 「領都の教会の、施療院。去年の冬、南から流れてきた家族が入ってた。夫が肺をやられてて」
セリアは早口になった。
「わたし、そこで奉仕してたの。カイルが動けない間、することがなくて」
俺は依頼票を握った。
「今も、いますか」 「わからない。でも、聞ける」
セリアは頷いた。
「わたし、行ってくる」 「いや、それは」 「ノア」
彼女は俺の言葉を遮った。
「三年前、わたしが何もできなかったのは、わたしが弱かったからじゃなくて、何をすればいいか思いつかなかったからなの」
セリアは自分の胸を押さえた。
「今、思いついた。だから、行かせて」
■
四日後、ミルク一家が村に着いた。
夫は痩せて咳をしていて、妻は夫を支えていて、娘は十二歳くらいで、母親の袖を掴んで離さなかった。
彼らを乗せてきた荷馬車の御者台に、セリアが座っていた。
「馬車代、いくらでした」
俺が聞くと、セリアは肩をすくめた。
「銀貨四枚」 「払います」 「いい。わたしが払いたかったの」
彼女は御者台から降りずに、村を見回した。
井戸端でカル爺さんが座っていて、その隣でティナが薬草を刻んでいた。
鍛冶場ではミカとロブが並んで金槌を振っていて、二人の打つ音が、ずれながら重なっていた。
畑ではドルグとトビーが畝を起こしていて、その脇でゼロが黙々と石を運んでいた。
ゼロが持ち上げている石の量は、明らかに人間の三倍あった。
広場では、リディアが木箱を机にして帳簿をつけていて、ボロがその上で寝ていて、時々払い落とされていた。
「……ノア」
セリアが呟いた。
「ここ、何なの」 「村です」 「そうじゃなくて」
彼女は口ごもって、それから言った。
「……みんな、顔が違う」
「違いますか」 「うん」
セリアは笑った。
少し泣きそうな笑い方だった。
「わたしが知ってる『使われてない人』の顔じゃない」
■
その夜、リディアが帳簿の頁を開いて、みんなの前で読み上げた。
「ロスタ集落、現在人口」
彼女は指で数えた。
「ノア、ティナ、ミカ、ドルグ、リディア、ゼロ。以上六名」
ボロが「我を数えろ」と抗議して、無視された。
「カル、トビー、トビーの弟二名。以上四名、合計十名」
彼女は次の頁をめくった。
「ロブ、以上一名。合計十一名」
ミルク一家の三人が、居心地悪そうに身を寄せていた。
「ミルク家三名。合計、十四名」
――十四。
広場が、しんとした。
一人、足りなかった。
「……あと一人」
ティナが呟いた。
「あと一人だけ」
期限は、明後日だった。
誰も何も言えないまま、焚き火の薪が爆ぜた。
その沈黙を破ったのは、御者台に座ったままだったセリアだった。
「……あの」
彼女は手を挙げた。
全員が振り返った。
「あの、これ、聖女って、人口に入りますか」




