↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝5.000pv!【拾い物】しか能がない俺、役立たずと勇者パーティーを追放されたので、みんなが捨てたものを拾って生きていく  作者: 音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/71

覗いていた子供

男の子は、俺と目が合った瞬間に逃げようとして、三歩で転んだ。

 起き上がって、また逃げようとして、また転んだ。

 二回目に転んだところで、ティナが追いついて、しゃがみ込んだ。

「大丈夫?」

 男の子は年のころ十歳くらいで、痩せていて、袖も裾も短くなった服を着ていた。

 膝が擦りむけて血が出ていたが、それより先に、彼は自分の背中を庇うようにして丸まった。

 背中に、麻袋を負っていた。

「盗ってない」

 彼は言った。

「なんも盗ってない。見てただけだ」

 袋の口から、干した薬草がはみ出していた。

 ティナがそれを見て、俺を見た。

 俺は少し離れたところに立ったまま、聞いた。

「その薬草、谷の裏で採ったの」 「……そうだよ」 「あそこ、俺たちの畑じゃないよ」 「え」 「村の外だから、誰のものでもない。盗ってないよ」

 男の子は、しばらく黙って、それから警戒した目のまま言った。

「じゃあ、なんで追いかけた」 「膝、血が出てるので」

 ティナが自分の手拭いを裂いて、彼の膝に巻いた。

 男の子は巻かれるままになっていたが、途中で小さく「痛い」と言って、それを言ったこと自体を恥じるみたいに口を結んだ。

   ■

 名前はトビーといった。

 宿場町の外れの、干し草置き場で寝ているという。

「薬草、いくらで売れるの」

 俺が聞くと、彼は指を三本立てた。

「一束、銅貨三枚。でも、買い叩かれると二枚」 「一日にどれくらい採れる?」 「四束。歩くのに時間かかるから」

 銅貨十枚前後だ。パンが二つ買える。

「一人で住んでるの」 「……四人」

 トビーはそう言って、それから慌てて口を押さえた。

「言ってねえ。今の、言ってねえからな」

 俺は頷いた。

「言ってないです」

 トビーは俺の顔をじっと見て、それから、ぼそぼそと続けた。

「弟が二人と、爺さんが一人。爺さんは足が動かねえ。だから俺が採るんだ」

 彼は麻袋を抱え直した。

「あんたら、ここに住んでんの」 「はい」 「三年前、俺たちも住んでた」

 俺は動きを止めた。

「――ロスタに?」

 トビーは頷いた。

「水が止まって、畑が枯れて、みんな出てった。爺さんはあのとき腰やって、それで歩けなくなった」

 彼は村を見回した。

 井戸を、水車を、鍛冶場の煙を。

「……なんで、煙上がってんだ」

 声が震えていた。

「三年、ずっと見に来てた。誰も帰ってこなかった。爺さんは、あの村はもう死んだって言った」

 トビーは俺を睨んだ。

 睨むというより、それ以外の顔ができない、という感じだった。

「なんで、あんたらみたいなよそ者が、住んでんだよ」

   ■

 俺は答えを探した。

 権利の話をすれば、俺たちのほうが弱い。

 拾ったから、と言えば、この子の三年を踏みつけることになる。

 結局、俺は何も言わずに、トビーの手を取って、井戸まで歩いた。

「水、飲んでみてください」

 俺は桶を落として、汲み上げて、彼の前に置いた。

 トビーは桶を覗き込んで、動きを止めた。

「……出てる」 「出てます」 「止まってたのに」

 彼は両手で水をすくって、飲んだ。

 一口飲んで、それから、二口目を飲もうとして、途中で止まった。

 肩が震えていた。

 顔を上げなかった。

 俺は待った。

 やがて、トビーは水の中に顔を突っ込むみたいにして、声を殺して泣いた。

   ■

 その日の夕方、俺は村の家を一軒、開けた。

 十四軒ある即入居可の家のうち、一番井戸に近い一軒だった。

「トビーくん」 「なんだよ」 「この家、誰の家か知ってますか」

 トビーは家を見て、それから、掠れた声で言った。

「……ミルクさんち」 「ミルクさんは、今どこに」 「知らねえ。散り散りだ」

 俺は扉を閉めて、隣の家に移った。

「じゃあ、こっちは」 「ハンナ婆ちゃんち」 「こっちは」 「……ロブさんち。鍛冶屋やってた」

 俺は次々に扉を開けて、そのたびにトビーが名前を言った。

 十四軒目まで来たとき、彼は疲れきった顔で言った。

「なんでこんなこと聞くんだよ」 「家の名前を、知ってる人がいないと困るからです」

 俺は言った。

「俺、この家を『十四番』としか呼べません。ミルクさんちだって知ってるのは、この村で、あなただけです」

 トビーが、俺を見た。

「三十日後に、人が十五人いないと、この村は取り上げられます」

 俺は続けた。

「今、七人しかいません。あと八人です」

 俺は屈んで、彼と目線を合わせた。

「爺さんと、弟二人と、あなたで四人。あと四人、あなたが名前を知っている人を、探すのを手伝ってくれませんか」

 トビーは、長いこと黙っていた。

 それから、鼻をすすって、こう言った。

「――飯、出るのか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。