破門された鍛冶屋
銀貨三枚で買ったのは、種と、釘と、油と、それから塩だった。
鍬は買えなかった。村にある三本の鍬は、どれも刃が擦り減って、土に刺さる前に跳ね返されるようになっていた。
「鍛冶屋に持ってくか」
ドルグが言ったので、俺たちは宿場町の鍛冶ギルドの表に鍬を三本抱えて立った。
結果から言うと、断られた。
「ロスタ? あんな場所に運ぶのは受けない」
ギルドの職人は、鍬を一瞥もせずにそう言った。
「そもそも研ぎ直しは仕事のうちに入らん。新しいのを買え」 「三本で銀貨いくらですか」 「銀貨六枚」
持ち金は銀貨一枚と銅貨がいくらかだった。
俺は鍬を抱え直して、頭を下げてから外へ出た。
通りを歩きながら、ドルグが唸った。
「あいつら、鍬なんぞ研いでも儲からんからな」 「そうですよね」 「昔はいたんだ。研ぎだけで食ってる爺さんが、この街に三人。今は一人もいねえ」
その日の午後、俺たちは宿場町の外れ、川沿いの捨て場を歩いていた。
鍛冶ギルドが出す屑鉄の捨て場で、失敗した鋳物や、折れた工具や、焼き入れをしくじった刃が山になっている。
ティナが目を輝かせて突っ込んでいこうとしたので、ドルグが襟首を掴んで止めた。
「破傷風で死ぬぞ」 「はい!」 「返事だけ元気だな、この娘は」
俺が屑鉄の山を眺めていたら――山の向こう側で、かん、と高い音がした。
金槌の音だった。
回り込むと、川原に小さな炉が組んであって、その前に、背の低い人影がしゃがんでいた。
赤毛を短く刈った女の子で、額に大きなゴーグルを上げていて、袖をまくった腕は肘まで煤で黒い。年は十四くらいに見えたが、ドワーフだとすると外見では判断できない。
彼女は屑鉄の中から拾ってきたらしい折れた鋤を炉に突っ込んで、真剣な顔で睨んでいた。
「熱が足りない」
彼女は独り言を言った。
「炭が悪い。悪いっていうか、これも拾いもんだから文句言えないんだけど、でも足りない」
俺は思わず声をかけた。
「風、送りますよ」 「うわっ」
彼女は飛び上がって、ゴーグルを落とした。
「な、なに、誰、人?」 「ノアです。そこの捨て場で鉄を探してました」 「拾い? あんたも拾い?」 「そうです」 「そっか。じゃあ敵じゃないね」
判断が早い。
彼女はゴーグルを拾い上げて、炉のふいごを顎で示した。
「じゃあ押して。ゆっくり、一定で。速くしないで、速くすると温度が暴れるから」
俺は言われたとおりにふいごを押した。
三年間、荷物持ちとして人の指示どおりに動くのだけは得意になっていたので、彼女は途中から何も言わなくなった。
炉の中の鋤が、黄色くなった。
彼女は鋏で掴み出して、金床に載せて、迷いなく金槌を振り下ろした。
かん、かん、かん、と音が川原に響いて、そのたびに火花が散った。
打つ角度も、打つ回数も、休ませる間合いも、全部が体に入っている手つきだった。
やがて彼女は鋤を水に突っ込んで、湯気が上がって、それを引き上げると――折れていた鋤が、短くはなったが、真っ直ぐな一本の刃に戻っていた。
「よし」
彼女は満足そうに頷いて、それから俺を見上げた。
「ありがと。あんた、ふいご上手いね」 「初めてです」 「嘘。初めての奴は絶対速くする」 「言われたとおりにしただけです」 「それができない奴が九割なの」
彼女は鋤を布で拭いて、脇に置いた。
「あたし、ミカ。ミカ・ドラム」 「鍛冶ギルドの人ですか」 「破門」
あっさりした答えだった。
「三ヶ月前。『古い技術に手を出した』って」
ミカは炉の火を見ながら、ぼそぼそと言った。
「三百年前の鍛え方が書いてある本があってさ、あたし、それを読んで、そのとおりに打ったの。そしたら、めちゃくちゃ良いのができた。今のギルドの規格より硬くて、粘りがあって、軽い」
彼女は膝を抱えた。
「そしたら親方が真っ青になって、『それは禁じられた技術だ、二度とやるな』って。あたしが『なんで』って聞いたら、答えないの。誰も答えないの。ただ『破門』って言われて、道具も全部取り上げられた」
ミカは金槌を持ち上げた。柄が割れて、針金でぐるぐる巻きにしてある金槌だった。
「これだけ、捨て場から拾い直した。あたしの金槌。捨てられてたから、拾っても盗みじゃないよね」 「盗みじゃないです」
俺は即答した。
自分でも驚くくらい、はっきりした声が出た。
「捨てられたものを拾うのは、盗みじゃないです」
ミカが顔を上げて、俺をじっと見た。
川の音がして、炉の炭が小さく爆ぜた。
「……あんた、変なこと言うね」 「よく言われます」
俺は腰の剣を外して、鞘ごとミカの前に置いた。
「これ、見てもらえますか」
ミカは何気なく鞘を開けて――そして、動きが止まった。
折れた刃を、彼女はしばらく見つめて、それからゴーグルを下ろして、もう一度覗き込んだ。
顔色が変わっていた。
「……なにこれ」 「折れた剣です」 「そんなことは見りゃわかる」
ミカは刃を指でなぞって、断面のところで指を止めた。
「この鍛え方、あたしが破門された鍛え方だ」




