第九十三話 崩れる誇り
「はぁっ!!」
エルシアは杖を振るう。
「ウィンドランス!」
休む間もなく中位魔法を連射する。
次々と放たれる魔法がフィリアへ襲い掛かった。
しかし、フィリアは動かない。
ただ静かにハルバードを振るった。
ヒュン――。
それだけだった。
ガギィィィィィン!!
飛来した魔法は。
まとめて真っ二つになった。
だが、それだけでは終わらない。
斬撃はそのまま地面へ到達する。
ズガァァァァァァン!!
演習場そのものが切り裂かれた。
石畳が一直線ではなく、綺麗な正方形へ切り分けられていく。
まるで巨大な刃物で細工されたように演習場全体が、正方形の石ブロックへと変わっていった。
エルシアは息を呑む。
(演習場ごと……斬った……?)
フィリアは何事もなかったように歩く。
ハルバードを肩へ担ぎながら静かに口を開いた。
「戦場では、魔法だけ見ている者から死にます」
その声は穏やかだった。
「魔法は便利です。ですが、便利だからこそ頼り過ぎる」
フィリアはゆっくりとハルバードを構える。
「私は勇者殿から、それを嫌というほど教えられました」
エルシアは歯を食いしばる。
認めたくなかった。
目の前の現実を。
エルフは、魔法こそが最強。
それだけを信じ、何百年もの歴史を積み重ねてきた。
なのに……その常識が、目の前で音を立てて崩れていく。
「……違う」
エルシアは首を振る。
「そんな戦い方は……エルフじゃない!」
フィリアは小さく笑う。
「そうでしょうね。だから私は追放されたのですから」
その言葉がエルシアの心をさらに逆撫でした。
「あ、あんたなんかに!!」
魔力が溢れる。
ゴォォォォォッ!!
膨大な魔力が渦を巻く。
演習場の空気が震え始めた。
フィリアは静かに目を細める。
(最上位級)
そう判断する。
だが、動かない。
詠唱を止めることも。
接近して殴ることも。
簡単だった。
しかし、それでは意味がない。
「……」
エルフが誇る最上位魔法。
それを真正面から叩き潰す。
それこそが、この決闘の終わり方だとフィリアは判断した。
長い詠唱が終わる。
エルシアは両手で杖を握り締め絶叫した。
「私の前から消えろ!!」
空が赤く染まる。
巨大な火球。
建物ほどもある灼熱の塊がフィリア目掛けて落ちてくる。
「『エクスプロージョン』!!」
最上位広域殲滅魔法。
本来なら遠距離から都市一つを焼き払うための魔法。
それをエルシアは、自ら諸共至近距離で発動した。
轟音。
熱風。
爆炎。
世界が赤く染まる。
しかし、その中心でフィリアだけは静かだった。
「やれやれ……」
小さくため息を吐く。
そして、ハルバードへ纏わせていた魔力を変質させる。
刃。
いや、紙よりも薄い極限まで圧縮された魔力刃。
ハルバード全体が、巨大な魔力の刃へと変貌した。
フィリアはゆっくりと構える。
そして、振るう。
ザンッ。
巨大な火球が真っ二つになった。
さらにもう一閃。
四つ。
八つ。
十六。
三十二。
六十四。
斬る。
斬る。
斬る。
一瞬の内に巨大な火球は無数の火球片へと変わっていた。
その時だった。
フィリアの詠唱が終わる。
「――『シン・エクス・ゲイル・グラビティ』」
低い声。
その瞬間、細切れとなった火球が一斉に一ヶ所へ吸い寄せられ始めた。
重力。
いや、空間そのものが歪む。
火球は抵抗できない。
次々と一点へ圧縮され、最後には拳大ほどの光となった。
そして、音もなく、消えた。
静寂。
何も残らない。
熱すら。
煙すら。
最上位魔法は完全に消滅していた。
「……そんな」
エルシアは呆然と立ち尽くす。
信じられない。
最上位魔法ーーーエクスプロージョン。
それが、正面から完全に打ち消された。
しかも、魔法で。
「どうして……」
膝が震える。
身体から力が抜ける。
魔力も。
もう残っていない。
限界だった。
その場へ崩れ落ちる。
「私は……」
涙が零れる。
「私は……何百年も……魔法だけを……」
フィリアは静かにハルバードを元の長杖へ戻した。
「だから」
静かな声だった。
「勇者殿は言っていました。『魔法は手段であって、目的じゃない』と」
エルシアは……もう、何も言い返せなかった。
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