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第九十二話 魔法と武

学園内。


決闘専用演習場。


先ほどまで期末実技試験が行われていた場所には、今は誰もいない。


観客席も空席。教師も、生徒も、誰一人として立ち会わない。


静まり返った闘技場の中央に向かい合う二人のエルフ。


王立ヴァルディア魔法学園学園長。


エルシア・ルーンヴェルク。


そして、世界冒険者ギルド参謀総長。


フィリア・エルフェルト。


互いに無言。


開始を告げる審判もいない。


ただ、静かに距離を測る。


フィリアは長杖を構える。


エルシアも同じように杖を構えた。


数秒、沈黙。


やがて、二人は同時に口を開く。


「「ウィンドランス!!」」


二本の風槍が一直線に飛ぶ。


ドォン!!


真正面から激突。


互いの魔法は完全に相殺され、風だけが周囲へ吹き荒れた。


フィリアは小さく笑う。


「挨拶代わりはこれぐらいにして……」


長杖を軽く回す。


「本気で行かせてもらいましょう」


その瞬間、フィリアの姿が消えた。


「――っ!?」


エルシアの瞳が見開かれる。


速い。いや、見失った。


次の瞬間。


「後ろです」


静かな声。


エルシアの背後。


フィリアは既に長杖を振りかぶっていた。


長杖へ魔力が纏わり付く。


それだけで、鉄塊のような質量を持った。


「はっ!」


腰を回し。


全身を使った横薙ぎ。


狙いはーーー脇腹。


エルシアは反射的に防御魔法を展開する。


「マルチ・シールド!」


一枚。


二枚。


三枚。


四枚。


五枚。


六枚。


七枚。


八枚。


瞬時に八重の防御膜が身体を包む。


次の瞬間。


ガギィィィィィィィィィィィィン!!


凄まじい衝撃。


一枚目。


粉砕。


二枚目。


粉砕。


三枚目。


粉砕。


四枚目。


粉砕。


五枚目。


六枚目。


七枚目。


八枚目。


全て一撃で砕け散った。


「ぐっ……!」


残った衝撃だけで。


エルシアの身体が大きく吹き飛ぶ。


地面を何度も跳ね。


十数メートル先でようやく停止した。


「ごほっ!」


口から血が零れる。


脇腹へ走る鈍い痛み。


肋骨にもひびが入っていた。


エルシアは震える手で立ち上がる。


(……ただの打撃。ただ、それだけでこの威力……!?)


もし、防御魔法を張っていなければ。


今頃、自分の身体は上半身と下半身に分かれていただろう。


一方、フィリアは長杖を軽く見つめる。


「……寸前でガードしましたか」


少しだけ不満そうだった。


「手応えがありませんでした」


エルシアは血を吐き捨てる。


「相変わらず……」


息を整えながら睨み返す。


「野蛮な戦い方ですね」


フィリアは肩を竦めた。


「ありがとうございます」


全く褒められたとは思っていない。


だが、気にも留めない。


「まだまだ、これからですよ」


そう言うとフィリアは長杖へさらに魔力を流し込んだ。


バチバチッ……


魔力が杖へ絡み付く。


その形がゆっくりと変化していく。


棒状だった長杖が刃を持つ武器へ。


長大な斧槍ーーーハルバードへと姿を変えた。


その姿を見た瞬間、エルシアの表情から余裕が完全に消えた。


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