第八十五話 雷槍
静まり返った演習場。
誰もが、エリナの手に握られた黒い槍を見つめていた。
教師も生徒も審判すら動けない。
対戦相手だけが我に返る。
「な、何だよそれ!」
慌ててファイアーボールを放つ。
轟音と共に巨大な火球が一直線に迫る。
しかし、エリナは表情一つ変えなかった。
右足を半歩引き、静かに槍を構える。
「……行きます」
そのまま、一直線に投げ放った。
ドォォォン!!
黒い雷槍は空気を裂きながら飛翔する。
真正面から迫るファイアーボール。
普通なら爆発する。
誰もがそう思った。
だが。
違った。
バチィィィッ!!
雷槍は炎を貫いた。
まるで紙を突き破るように、ファイアーボールは一瞬で霧散する。
勢いは止まらない。
そのまま、対戦相手の胸へ突き刺さった。
「がっ……!」
次の瞬間だった。
槍へ蓄えられていた雷が一気に解放される。
バチバチバチバチィィィィッ!!
凄まじい電撃。
対戦相手の身体が大きく跳ね上がる。
「ぎゃあああああぁぁぁ!!」
悲鳴が演習場へ響き渡った。
もちろん、試験である以上、安全対策は施されている。
受験者全員へ配られている魔導具。
一度だけ致命的な攻撃を無効化する護符。
雷槍が命中した瞬間。
パリン。
小さな音を立てて護符が砕け散った。
致命傷だけは防がれた。
しかし、痛みまでは消えない。
全身へ走る雷撃に耐え切れず、対戦相手はその場へ倒れ込む。
審判教師もようやく我へ返った。
「し、試合終了!勝者――エリナ・フォン・ラウル!」
会場がどよめく。
「魔法を……貫いた?」
「いや、魔法そのものを消し飛ばしたぞ」
「そんな魔法聞いたことがない!」
教師たちも困惑していた。
魔法を相殺することはある。
威力で押し切ることもある。
だが、真正面から貫き、そのまま対象へ到達する魔法など見たことがなかった。
◇◇◇
第二試合。
今度の相手は先ほどの試合を見ている。
「同じ手は食わない!」
開始と同時に距離を取る。
左右へ。
前後へ。
絶えず移動しながら魔法を放つ。
「「「ファイアーボール!」」」
三方向から魔法が飛来する。
だが、エリナは落ち着いていた。
再び、ゆっくりと詠唱を終える。
黒い雷槍がその手へ現れる。
「避ければいいだけだ!」
相手は笑う。
一本道の投擲。
ならば当たらない。
そう確信していた。
エリナは静かに槍を見つめる。
「……なるほど」
小さく呟く。
次の瞬間。
バチッ。
雷槍が震えた。
一本だった槍が、二本、三本、四本。
次々と姿を増やしていく。
「……え?」
対戦相手の笑みが固まる。
観客席も騒然となった。
「分裂した!?」
「魔法が増えたぞ!」
エリナ自身も少し驚いた表情を浮かべる。
(やっぱり、ミサさんの仰っていた通り……)
一度術式を完成させれば、同一術式の複製は詠唱を必要としない。
エリナは四本の雷槍を静かに構える。
「逃げ場はありません」
放たれた。
一本。
二本。
三本。
三方向から同時に迫る雷槍。
対戦相手は咄嗟に方向転換する。
しかし、避けた先にも雷槍。
横へ飛んでも雷槍。
後退しても雷槍。
完全に逃げ道を塞がれていた。
「しまっ――」
ドォォォン!!
四本の雷槍が同時に命中する。
護符が砕ける。
雷撃が全身を駆け巡る。
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
そのまま地面へ倒れ伏した。
「試合終了!勝者――エリナ・フォン・ラウル!」
観客席は騒然となる。
「複製したぞ!」
「詠唱していない!」
「どういう魔法なんだ!」
教師たちですら答えられなかった。
◇◇◇
こうして、エリナは危なげなく勝ち進む。
そして、いよいよ最後の試合。
決勝戦。
演習場の空気は、これまで以上に張り詰めていた。
審判教師が静かに二人を見回す。
「それでは、期末実技試験、決勝戦を開始します」
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。




