第八十三話 解読
その日の授業を終えたエリナは、ギルドで借りている自室へ戻ると、制服から部屋着へ着替える間も惜しむように机へ向かった。
机の上には、いつもの一枚の紙。
ミサから宿題として渡された術式である。
120114041506190801041523191821120518190301200801030807180114202114201513250801140420080502051215220504191605011823092008200809182025200815181419200821140405182008181523
何度も眺めた数字の羅列。
魔法理論書も暗号学も神代文字も古代文字も考えられる限り全て調べた。
それでも答えは見つからない。
「…………」
エリナは紙をじっと見つめる。
何度見ても数字だけ。
術式らしいものは何一つ見当たらない。
「……術式」
小さく呟く。
ミサは確かに言っていた。
『これは術式よ』
ならば、この数字には必ず意味がある。
「規則性……」
紙へ視線を落とす。
その時だった。
「……0が多い」
違和感。
今まで何度も見ていたはずなのに。
今日になって初めて気付いた。
一桁の数字が存在しない。
必ず、二桁になっている。
「12……01……14……」
エリナは羽根ペンを手に取る。
数字を二つずつ区切っていく。
12 01 14 04 15 06 19 08 01 04 15 23 19……
「やっぱり、二桁で区切るのが正しい」
だが、そこから先が分からない。
数字であることしか分からなかった。
「術式……文字……」
エリナは椅子へ深く腰掛ける。
その時、ふと視線が部屋の壁へ向いた。
学園で配られた共通語と古代文字の比較表。
そして、その隣には……フィリアから勉強用として渡された異世界文字の一覧。
『A』
その文字が目へ飛び込んだ。
エリナは息を止める。
「A……一番目……!!」
思考が一気に繋がる。
一。
二。
三。
四。
それは数字ではなく順番。
「まさか……!」
エリナは机へ飛び付いた。
01ーA。
02ーB。
03ーC。
04ーD。
「12は……L。01はA。14はN。04はD」
ペンが止まらない。
L。
A。
N。
D。
「LAND……?」
思わず声が漏れる。
さらに続ける。
15ーO。
06ーF。
「OF」
エリナの鼓動が早まる。
「19……S、08……H、01……A、04……D、15……O、23……W、19……S、SHADOWS……!」
紙へ文字を書き写していく。
やがて、意味の分からなかった数字は文字へ姿を変え始めた。
landofshadowsrulerscathachgrantuntomyhandthebelovedspearwiththirtythornsthunderthrow
「……読める」
エリナは思わず立ち上がった。
だが、まだ終わりではない。
今度は文章として区切る。
深呼吸を一つ。
そして、ゆっくりと書き直していく。
Land of Shadows.
Ruler.
Scathach, grant unto my hand the beloved spear with thirty thorns.
Thunder Throw.
書き終えた瞬間、エリナはしばらく紙を見つめ続けた。
「……解けた」
何度挑んでも辿り着けなかった宿題。
その第一の扉をついに自分の力で開いた。
「ミサさん……」
自然と笑みが零れる。
ミサは言っていた。
『解けた時には、魔法の見え方が変わるわ』
その意味をエリナはようやく理解し始めていた。
これは単なる暗号ではない。
勇者だけが辿り着いた、新たな術式体系。
その入口へ、自分はようやく立ったのだ。
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