第八十二話 解けない宿題
決闘からしばらく経ったある日。
昼休み。
王立ヴァルディア魔法学園の図書室には、一人の少女が分厚い本を何冊も机へ積み上げていた。
エリナ・フォン・ラウル。
目の前には魔法理論書。
古代魔法学。
神代文字学。
暗号学。
魔法陣構築論。
ありとあらゆる分野の書籍が並んでいる。
その中央には、一枚の紙。
ミサから宿題として渡された術式だった。
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紙へ書かれているのは、数字だけ。
魔法陣はない。
文字もない。
延々と数字だけが並んでいる。
エリナは紙と本を何度も見比べながら、小さくため息を吐いた。
「やっぱり駄目ですか……」
半年近く考え続けている。
それでも、答えは一向に見えてこなかった。
そこへ、三人の友人たちがやって来る。
「また宿題?」
クラリス・フォン・エーデルが苦笑しながら椅子へ座った。
「はい」
エリナも苦笑する。
「今日こそ何か分かるかと思ったのですが……」
アリシア・フォン・ローゼンベルクは紙を手に取る。
数字を目で追う。
「相変わらず意味が分からないわね」
「ええ」
「規則性はありそうなんだけど……」
隣ではセリーヌ・フォン・アルヴィスが、何冊もの本を広げていた。
「古代文字ではない」
「神代文字でもない」
「魔法陣の座標でもない」
「魔力量の配列でもない」
一つずつ候補を潰していく。
しかし、どれも一致しない。
クラリスも紙を覗き込む。
「ねぇ、これ本当に術式なの?」
「実はミサさんの悪戯だったりしない?」
エリナは首を横へ振る。
「それはありません」
即答だった。
「ミサさんは、意味のないことでは絶対に人を試しません」
「この数字には、必ず意味があります」
アリシアが腕を組む。
「じゃあ、何か規則があるのかしら」
「その規則が分からないんです」
エリナは紙へ視線を落とした。
「ミサさんのことです」
「この数字には何か規則性があるはずなんです」
「でも、その規則そのものが見つからない」
数字だけを見ていても。
魔法理論書を読んでいても。
暗号学を調べても。
何も繋がらない。
セリーヌが静かに呟く。
「つまり」
「解き方を知らない限り、一生解けない宿題ということね」
エリナは苦笑する。
「そうかもしれません」
それでも、諦めるつもりはなかった。
ミサが自分へ託した宿題。
「解けた時には、魔法の見え方が変わる」
そう言われた宿題だからこそ。
必ず意味がある。
必ず辿り着ける答えがある。
エリナはもう一度数字の羅列を見つめる。
一見、何の意味も持たない数字。
だが、その奥には。
ミサだけが知る魔法の真理が隠されている。
そんな気がしてならなかった。
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