第七十八話 広まる悪評
決闘から数日。
王立ヴァルディア魔法学園では、一人の少女の話題で持ち切りとなっていた。
エリナ・フォン・ラウル。
犯罪者の娘。
そして、五対一の決闘へ勝利した少女。
本来なら称賛を受けてもおかしくない戦績だった。
しかし、現実は正反対だった。
「聞きまして?」
「ええ、もちろんですわ」
「あの野蛮な戦い方でしょう?」
廊下を歩けば、必ず誰かの声が耳へ入る。
「魔法使いなのに殴るなんて」
「品がありませんわ」
「まるで冒険者ですもの」
「野蛮人と同じではありませんか」
貴族社会。
その価値観は絶対だった。
魔法使いは魔法で勝ってこそ価値がある。
美しく。
優雅に。
知性を競う。
それが貴族の魔法だった。
拳を振るい。
蹴りを放ち。
接近戦を行う。
そんなものは騎士や兵士。
あるいは命を懸ける冒険者が行うもの。
高貴な魔法使いがする戦いではない。
だからこそ、エリナの戦い方は、多くの生徒に受け入れられなかった。
「あれでは魔法学園ではなく冒険者養成所ですわ」
「ラウル家も落ちぶれたものですわね」
「だから犯罪者の娘などと……」
勝負には勝った。
しかし、世間の評価では敗者だった。
◇◇◇
昼休み。
学園中庭。
エリナは三人の友人と昼食を囲んでいた。
向かいへ座る金髪の少女。
アリシア・フォン・ローゼンベルク。
その隣には、明るい茶髪のクラリス・フォン・エーデル。
そして静かに本を閉じながら昼食を取る銀髪の少女。
セリーヌ・フォン・アルヴィス。
四人は同じクラスとなって以来、自然と行動を共にするようになっていた。
もっとも、周囲から聞こえる陰口だけは以前と変わらない。
「また言っていますね」
クラリスが苦笑する。
エリナは小さく肩を竦めた。
「慣れました」
「どうせ何をしても言われますから」
その言葉に、アリシアは静かに首を横へ振る。
「私は、あなたの戦い方は間違っていないと思うわ」
「え?」
エリナが顔を上げる。
アリシアは真っ直ぐエリナを見つめた。
「少なくとも、勝つためには最も合理的だったもの」
「相手は五人」
「しかも途中から上位魔法まで準備していたでしょう?」
「真正面から魔法だけで撃ち合っていたら、負けていた可能性も高かったわ」
エリナは苦笑する。
「それは……そうですね」
すると、クラリスも元気よく頷いた。
「前のエリナって、魔法の撃ち合いばっかりだったじゃない?」
「はい」
「だから手数で押し切られることが多かったでしょう?」
その言葉にエリナも頷く。
事実だった。
以前の自分は、魔法だけで勝負していた。
相手が十発撃てるなら、自分は八発。
純粋な魔法戦では、どうしても押し負けることが多かった。
「でも今回は違ったじゃない」
クラリスは笑う。
「魔法で近付いて」
「体術で決める」
「相手の得意な土俵で戦わなかっただけでしょう?」
「私は格好良かったと思うよ」
最後に口を開いたのはセリーヌだった。
「理論的にも正しいわ」
静かな口調。
しかし、その声には確信があった。
「戦闘で最も重要なのは、自分の長所を押し付けること」
「相手の長所へ付き合う必要はないもの」
「魔法使いだから魔法だけで戦わなければならない」
「そんな決まりは存在しないわ」
エリナは少し驚いた表情を浮かべる。
「セリーヌさんまで……」
「事実を言っただけよ」
セリーヌは紅茶を一口飲む。
「実戦なら、あなたの戦い方の方が生き残る確率は高いと思うわ」
三人の言葉に。
エリナは自然と笑みを浮かべていた。
「ありがとうございます」
「そう言っていただけるだけで十分です」
四人の間へ穏やかな空気が流れる。
だが、その様子を遠くから見つめる視線は、決して友好的なものではなかった。
「……気に入りませんわ」
「ええ」
「魔法使いが冒険者の真似事など」
「学園の恥ですわ」
悪評は、少しずつ。
しかし確実に王立ヴァルディア魔法学園全体へ広がっていくのだった。
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