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第六十九話 領主の決断

リリアによる領主館襲撃事件。


その爪痕は。


村だけでは終わらなかった。


事件の報告は即日。


ヴァルディア王国王都へ届けられた。


そして。


裁判。


領主夫人は暗殺者を送り込んだ首謀者として有罪判決を受けた。


貴族籍剥奪。


全財産没収。


爵位剥奪。


王国法に則り。


全てを失うこととなった。



事件から数日後。


領主館。


執務室。


机へ積み上がる書類を前に。


領主。


アーヴィン・フォン・ラウルは深くため息を吐いた。


「……終わったな」


誰へ向けた言葉でもない。


独り言だった。


目の前には。


王都から届いた正式な通達。


領地没収。


そう書かれていた。


「やはり……そうなるか」


当然だった。


領主夫人が起こした事件とはいえ。


責任は領主家全体へ及ぶ。


アーヴィンも覚悟していた。


だが。


続く一文を読み。


思わず目を丸くした。


『領地所有権はヴァルディア王国国王オズワルド・エルンスト・フォン・ローゼンクロイツ陛下へ帰属する。現領主アーヴィン・フォン・ラウルを、暫定領主代行として任命する』


「……代行?」


何度も読み返す。


間違いではない。


領地は王家直轄となる。


しかし。


新たな領主は置かれない。


今まで通り。


アーヴィンが領地運営を続けるよう命じられていた。


理由も記されている。


新たな領主を派遣すれば。


引き継ぎだけで数か月。


混乱は避けられない。


さらに。


今回の事件において。


アーヴィン本人は完全な被害者だった。


領主館は壊滅。


騎士団も壊滅。


妻は逮捕。


娘は家を出た。


失うものは全て失っている。


その事情を考慮し。


国王オズワルドは温情措置を取ったのだった。


「……陛下」


アーヴィンは静かに頭を下げた。


「この御恩は、必ず」


だが。


安堵する暇など無かった。


机には。


まだ山のような書類が積まれている。


騎士団再編。


領主館修繕。


遺族への補償。


村への支援。


王都への報告。


やるべきことは山積みだった。


そこへ。


執事が部屋へ入って来る。


「旦那様」


「どうした」


「奥様のご実家ですが……」


アーヴィンは目を閉じる。


「……やはり来たか」


領主夫人の実家。


名門貴族である彼らは。


今回の判決へ異議を申し立てた。


しかし。


その結果は。


さらに悪いものとなった。


夫人の犯罪を知りながら黙認。


資金援助。


証拠隠滅。


数々の事実が明るみに出た。


結果。


幇助罪。


王命への反逆。


複数の罪状で裁かれ。


一族は没落した。


「お嬢様も……」


執事が言葉を濁す。


アーヴィンは静かに頷いた。


「ああ」


「全て終わった」


夫人の実家も。


その娘たちも。


それぞれ相応の処分を受けた。


静かな沈黙。


やがて。


アーヴィンは一枚の書類へ目を向ける。


離婚届。


既に受理済み。


妻は貴族籍を失った。


ならば。


婚姻関係も存在しない。


「……これで、本当に終わりだ」


小さく呟く。


そして。


最後の書類を手に取った。


親権変更届。


養育権者。


アーヴィン・フォン・ラウル


一人娘。


エリナ。


その親権は正式に父親であるアーヴィンへ移された。


「帰って来るかどうかは……あの子次第だな」


苦笑する。


家を飛び出した娘。


その理由も。


今なら理解できる。


「あの子は……間違っていなかった」


静かな部屋へ。


その言葉だけが響いた。


領地は失った。


爵位も以前ほどの力は無い。


騎士団も壊滅した。


それでも。


守るべき領民はいる。


帰る場所を失った娘もいる。


アーヴィンは立ち上がる。


机の上の書類を手に取り。


静かに歩き出した。


「さて……忙しくなるな」


領主としてではなく。


一人の父親として。


そして。


領民を守る責任者として。


アーヴィン・フォン・ラウルの新たな日々が始まろうとしていた。


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