第六十七話 総マスター来訪
数日後。
静かな村へ、一台の馬車が到着した。
冒険者ギルド本部の紋章が刻まれた馬車。
それを見たギルド職員たちは一斉に姿勢を正す。
馬車から降りてきたのは。
冒険者ギルド総マスター。
アルドリック・ヴァン・グレイ。
そして。
その隣には。
右腕であるエルフ、フィリアの姿もあった。
ギルドへ入るなり。
アルドリックは受付にも寄らず、一直線に奥へ向かう。
執務室。
ノックもそこそこに扉を開ける。
「よう」
書類仕事をしていたガルドが顔を上げた。
「アルドリックか……」
アルドリックは椅子へ座ることもなく言った。
「ちょっとツラ貸せ」
「……分かった」
◇
三人はギルド裏手の訓練場へ移動する。
周囲には誰もいない。
それを確認すると。
フィリアが杖を取り出した。
淡い光が広がる。
防音結界。
盗聴防止。
探知阻害。
複数の魔法が重ね掛けされる。
「これで大丈夫です」
フィリアが頷く。
アルドリックも腕を組んだ。
細かい前置きは苦手である。
だからこそ。
いきなり本題へ入った。
「ガルド……お前、勇者を匿ってたそうだな」
ガルドは黙って頷いた。
否定する意味はもう無い。
アルドリックは苦笑する。
「まさか俺のギルドで勇者が受付嬢やってるとは思わねぇよ。灯台下暗しってやつだな」
ガルドも苦笑するしかなかった。
「俺も最初は勇者に受付嬢が務まるとは思っていなかったがな」
「だろうな」
アルドリックは納得する。
勇者。
世界中が探していた人物。
その本人が。
地方の小さな村で受付嬢をしている。
誰が想像するだろうか。
アルドリックは隣へ視線を向けた。
「フィリア。王都で何があった?」
フィリアは静かに答える。
「領主夫人の裁判が行われる為、事前に領主館での勇者が現れた事については、話してありました。裁判後にガルドさんが勇者を匿っている事について話しました」
ガルドは黙って聞いている。
その件については。
既にフィリアから事前に伝えられていた。
アルドリックが眉をひそめる。
「何で話した?」
フィリアは真っ直ぐ答えた。
「どのみち、この件はガルドさんと総マスターが話し合う必要がありました。もし総マスターだけが何も知らなければ、誤解から戦闘へ発展する可能性もありました」
アルドリックは数秒黙った後。
小さく笑う。
「まあ、そうだろうな。確かに、何も知らねぇ俺なら力尽くで探そうとしたかもしれねぇ」
「その可能性は高かったでしょう」
フィリアも否定しない。
だからこそ。
先に話した。
アルドリックは再びガルドを見る。
「で、当の本人はどうしてる」
ガルドは短く答えた。
「寝てるよ」
「……寝てる?」
「ほとんど一日中な」
ガルドはため息を吐いた。
「あの日からだ。転移術式やら何やらで、反動で内臓をやられてな……起きても数時間が限界だ。仕事なんざ到底無理だ。今は寝て、少し起きて、また寝る生活を繰り返してる」
「看病は?」
「エリナ嬢が全部やってくれてる」
フィリアは静かに頷いた。
「そうですか……」
ガルドは続ける。
「あと、リリアもまだ起きねぇ」
アルドリックとフィリアの表情が変わる。
「別室へ寝かせてる。ミサが領主館で撃ち込んだ術式弾の影響だろう。意識は戻らねぇし、呼び掛けても反応無しねぇしな」
部屋は静まり返る。
アルドリックはゆっくり息を吐いた。
「勇者は寝たきり。リリアは昏睡状態……本当に、ろくでもねぇ事件だな」
誰も、その言葉を否定できなかった。
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