第六十六話 三者会談
領主夫人の裁判が終わった。
傍聴席の者たちも次々と退席し。
重苦しかった法廷にも、ようやく静けさが戻る。
しかし。
事件そのものは何一つ終わっていなかった。
◇
ヴァルディア王国。
王城最上階。
限られた者しか入室を許されない貴賓室。
重厚な扉が静かに閉まる。
部屋の中には。
ヴァルディア王国国王。
オズワルド・エルンスト・フォン・ローゼンクロイツ。
聖王国サンクトゥス・セレスティア聖女。
セレスティア・ルクス・セラフィナ。
そして。
冒険者ギルド総マスター。
アルドリック・ヴァン・グレイ。
ヴァルディア王国。
聖国アウレリア。
冒険者ギルド。
三勢力の最高責任者が顔を揃えていた。
誰も。
すぐには口を開かなかった。
今回の事件は。
あまりにも規模が大きすぎた。
暗殺未遂。
暗殺ギルド壊滅。
領主館襲撃。
多数の死傷者。
ヴァルディア王国と聖王国サンクトゥス・セレスティアの外交問題。
一つだけでも国家を揺るがす事件である。
それが短期間で立て続けに起こった。
やがて。
オズワルドが深く息を吐く。
「……疲れた」
その一言に。
セレスティアは苦笑した。
「私も同感です」
アルドリックも肩を竦める。
「俺もだ」
三人とも。
珍しく意見が一致した。
しかし。
その空気はすぐに消える。
セレスティアは静かにアルドリックへ視線を向けた。
「では、本題へ入りましょう」
「冒険者ギルド総マスター」
「はい」
「リリア・エル・セラフィナは現在どこにいますか?」
部屋の空気が張り詰める。
アルドリックは少しも表情を変えなかった。
「知らん」
短い返答だった。
セレスティアは静かに加護を発動する。
真偽判定の加護。
相手の言葉が真実か虚偽かを判別する加護。
淡い光がアルドリックを包む。
数秒。
沈黙。
やがて。
光は静かに消えた。
セレスティアは小さく息を吐く。
(……真実)
アルドリックは。
本当にリリアの所在を知らない。
隠している訳でも。
庇っている訳でもなかった。
オズワルドも腕を組む。
「フィリアからの報告では」
「領主館で戦闘中、勇者と思われる人物が現れ、リリアを連れ去った」
「それだけだったな」
セレスティアは静かに頷く。
「はい」
フィリアから提出された報告書。
そこに書かれていた内容は極めて簡潔だった。
深いフードを被った人物が現れた。
リリアを抱き締めた。
そして。
転移陣を展開し。
リリアを連れて姿を消した。
それ以上は。
何も報告されていない。
フィリア自身も。
それ以上は何も語らなかった。
アルドリックは静かに口を開く。
「つまり、お前たちも知らないってことだな」
「はい」
セレスティアは素直に認めた。
「リリアの現在地は不明です。勇者の所在も依然として不明。私たちが把握しているのは、あの日、勇者と思われる人物がリリアを連れ去ったことだけです」
再び沈黙が流れる。
オズワルドは深く椅子へ身体を預けた。
「結局」
「今回最大の当事者二人とも、行方不明か」
誰も否定しない。
アルドリックも静かに腕を組み直す。
「……厄介な話だ」
部屋の空気は重い。
今回の事件は終わった。
だが。
リリアは行方不明。
そして。
勇者もまた。
依然として消息不明。
三人とも。
今回の事件が終幕ではなく。
新たな始まりであることだけは。
嫌というほど理解していた。
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