表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
63/80

第六十三話 血の跡

リリア暴走事件から数時間。


夜明けを迎え、領主館ではようやく事態の収拾が一段落していた。


神官たちは負傷者の治療を続け。


冒険者たちは倒壊した建物の確認と遺体の搬送を行っている。


ガルドは深く息を吐いた。


「……戻るか」


「私も同行します」


フィリアが静かに答える。


ガルドは頷いた。


歩き始めてしばらくすると、ガルドはずっと胸に引っ掛かっていた疑問を口にする。


「一つ聞かせろ」


「何でしょう」


「どうして聖国は、リリアの名前を聞いただけであれほど迅速に動いた」


フィリアは少しだけ考え、静かに答えた。


「リリアは現在、聖国最優先の捜索対象です」


「捜索対象?」


「はい。数日前から消息不明となっていました」


ガルドは眉をひそめる。


「それだけで、あそこまで大部隊を動かすのか?」


「……実は」


フィリアは言いづらそうに口を開く。


「少し前に、暗殺ギルドが一夜にして壊滅しました」


ガルドの足が止まる。


「……今、何と言った?」


「暗殺ギルドです。本部、支部を含めて全て殲滅されました」


「馬鹿な……」


ガルドは絶句した。


そんな話は初耳だった。


暗殺ギルドほど巨大な組織が、一夜で消えるなど考えたこともない。


「その首謀者が、リリアでした」


フィリアは静かに続ける。


「それ以来、聖国では最優先でリリアの行方を追っていました。ですから、あなたの緊急要請でリリアの名前を聞いた瞬間、神官隊を派遣したのです」


ガルドは頭を抱える。


「そういうことだったのか……」


ようやく全てが繋がった。


リリアの名だけで聖国が即応した理由。


その裏には、暗殺ギルド壊滅という、とんでもない事件が隠されていたのだ。


やがて二人は冒険者ギルドへ到着する。


だが。


様子がおかしかった。


普段なら開いている時間にもかかわらず、扉は閉ざされ、人だかりができている。


「ガルドさん!」


村人が駆け寄る。


「中から血の臭いがするんです!」


ガルドは嫌な予感を覚え、予備の鍵で扉を開けた。


瞬間。


濃い鉄臭さが鼻を突く。


床には大量の血痕。


それは受付の奥から一本の線となり、二階へ続いていた。


「ミサ!」


ガルドは血の跡を追って階段を駆け上がる。


フィリアも後を追う。


血痕はミサの部屋で止まっていた。


ガルドは躊躇なく扉を開け放つ。


そこには。


深いフードを被った少女が床へ倒れ込んでいた。


その傍ら。


ベッドではリリアが静かに眠っている。


「ミサ!」


ガルドが抱き起こすと、フードがずれ、その素顔が現れた。


神代美咲。


フィリアはすぐ膝をつき、両手を重ねる。


「回復魔法を……!」


淡い光が美咲を包み込む。


その瞬間。


フィリアの顔色が変わった。


「……これは」


回復魔法を通じて、美咲の身体の状態が流れ込んでくる。


内臓という内臓が傷付き。


全身の生命力までも著しく消耗していた。


まるで。


生命そのものを無理やり削り取られたような状態だった。


「これは……普通の魔法の反動ではありません」


ガルドが眉をひそめる。


「どういうことだ?」


フィリアは静かに美咲を見つめる。


「勇者殿は魔法を使えません」


「……何?」


「勇者殿には魔力はあります。ですが、術式を構築して魔法を発動させる力そのものがありません」


ガルドは驚きの表情を浮かべた。


「あの転移陣は……」


「聖剣です」


フィリアは静かに答えた。


「勇者殿の聖剣が、本人に代わって術式を構築し、魔法を執行しています」


ガルドは息を呑む。


「そんなことが可能なのか」


「可能なのでしょう。ですが……」


フィリアは苦しげに続ける。


「聖剣には、安全装置がありません」


「安全装置?」


「通常、術式には使用者の魔力量を超える魔法を発動できないよう制限が設けられています。ですが、聖剣は違います」


静かな部屋に。


フィリアの声だけが響く。


「魔力が足りなくても、強制的に術式を完成させます」


ガルドの表情が険しくなる。


「足りない魔力はどうなる?」


「生命力です」


フィリアは小さく答えた。


「不足した魔力は、勇者殿自身の生命力を代価として補われます」


部屋が静まり返る。


「あの転移陣を発動した代償が、この内臓損傷です」


「命を削って……転移したのか」


「はい」


フィリアは静かに頷く。


「転移が完了した時点で、勇者殿には自力で身体を修復するだけの生命力すら残っていませんでした」


だから。


大量に吐血し。


その場で倒れたのだった。


フィリアは回復魔法を流し続ける。


しばらくして。


美咲の呼吸が少しだけ落ち着いた。


「取り敢えず応急処置はしましたが、ただ、しばらくは絶対安静です」


ガルドは安堵の息を吐く。


そして部屋を見回した。


床一面に残る大量の血痕。


部屋中に漂う鉄臭さ。


「……これは営業どころじゃないな」


「ええ」


フィリアも静かに頷く。


こうして冒険者ギルドは急遽休業となり。


冒険者総出で、大掃除が始まることとなった。


【作者からのお願い】

『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。

本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ