表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/78

第六十二話 勇者

戦闘は終わらなかった。


一時間。


二時間。


どれだけ時間が過ぎたのか。


誰にも分からない。


空は完全に暗くなり。


厚い雲が夜空を覆う。


やがて。


ぽつり。


雨が降り始めた。


それは瞬く間に豪雨となり。


視界は最悪となる。


「くっ……!」


ガルドが大剣を構え直す。


雨で視界は遮られ。


足場はぬかるみ。


戦う環境としては最悪だった。


だが。


そんな状況はリリアにとって何の問題にもならない。


銀閃。


また一人。


冒険者が吹き飛ぶ。


「負傷者を下げろ!」


フィリアが叫ぶ。


戦闘不能となった冒険者たちは次々と後方へ運ばれ。


神官たちが必死に回復魔法を施す。


しかし。


回復しても。


また前へ出る。


そして。


また倒される。


その繰り返しだった。


誰一人。


リリアを止められない。


ガルドも肩で息をしていた。


額から流れる汗は雨と混じり。


全身の筋肉が悲鳴を上げている。


対するリリアは。


息一つ乱れていない。


修道服は激しい戦闘でほとんど破れていた。


だが。


その身体には傷一つ残っていなかった。


斬られても。


砕かれても。


その全てが再生してしまう。


まさに怪物だった。


その時だった。


「……?」


領主館の門前へ、一頭の馬が静かに止まる。


馬から一人の少女が降り立った。


深く被ったフード。


全身を覆う外套。


その姿を見ても。


誰なのか分からない。


「誰だ?」


「近付くな!」


冒険者たちが制止する。


しかし。


少女は何も答えない。


そのまま。


ゆっくりと歩き出す。


一直線に。


リリアの方へ。


「危険です!」


「止まりなさい!」


誰もが叫ぶ。


それでも少女は止まらない。


リリアも。


ゆっくりと少女を見る。


そして。


銃剣を構えた。


あと一歩。


あと半歩。


互いの距離が消えた。


その瞬間。


少女は。


そっと。


リリアを抱きしめた。


優しく。


包み込むように。


「もう、いいの。これ以上リリアが傷つくのは見たくない……」


その言葉だった。


カラン。


リリアの手から銃剣が落ちる。


震える腕で。


少女を抱きしめ返した。


「はい……」


安堵したような声だった。


その瞬間。


――パンッ。


乾いた破裂音が夜へ響く。


リリアのこめかみへ。


一発の銃弾が撃ち込まれた。


「勇者様……な、ぜ……?」


信じられない。


そんな表情のまま。


リリアの身体から力が抜ける。


ゆっくりと。


その場へ倒れ込んだ。


雨だけが静かに降り続ける。


誰も。


何が起きたのか理解できなかった。


フィリアだけは違った。


少女が握っている武器。


見覚えがあった。


忘れるはずがない。


勇者だけが使っていた。


異世界の武器。


「勇者……殿……なのか?」


その一言で。


全員の視線が少女へ集まる。


その直後。


激しく咳き込んだ。


「ごほっ……ごほっ!」


大量の血が地面へ落ちる。


膝を突き。


苦しそうに息を整える。


そして。


血を袖で拭いながら。


静かに微笑んだ。


「久しぶり……ね、フィリア」


フィリアは言葉を失う。


目の前にいる人物。


忘れるはずもない。


かつて共に旅をした。


勇者。


神代美咲だった。


美咲は静かにリリアを抱き上げる。


壊れ物を扱うように。


優しく。


そして。


銃口を地面へ向ける。


パンッ。


銃弾が地面へ撃ち込まれる。


その瞬間。


巨大な魔法陣が展開された。


「転移陣!?」


誰かが叫ぶ。


光が二人を包み込む。


フィリアは思わず一歩踏み出した。


「待って!」


その声も届かず。


光が弾ける。


次の瞬間。


二人の姿は。


完全に消えていた。


静寂。


雨音だけが響く。


誰も。


動けなかった。


あまりにも。


あっけない結末だった。


フィリアは立ち尽くしたまま。


転移陣が消えた場所を見つめ続ける。


「……勇者殿」


小さく呟く。


返事はない。


やがて。


ガルドが深く息を吐いた。


「終わった……のか」


誰も答えなかった。


夜明けが近付く頃。


ようやく全員が現実を受け入れ始める。


神官たちは負傷者の治療を続け。


冒険者たちは倒壊した領主館の警戒と後始末を開始する。


騎士たちは犠牲者を運び出し。


現場保存が始まった。


こうして。


領主館を血に染めた。


リリア暴走事件は。


静かに幕を閉じた。


【作者からのお願い】

『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。

本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ