表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
55/84

第五十五話 黙示の日まで

聖王国サンクトゥス・セレスティア。


その中心にそびえ立つ大聖堂の地下深く。


普段は決して開かれることのない広大な礼拝堂へ、一人、また一人と純白の修道服を纏った女性たちが集まっていた。


シスターズ。


リリア計画において生み出された強化人間たち。


最高傑作であるリリア・エル・セラフィナの完成によって表舞台へ立つことなく、教会直属の秘密部隊として暗躍し続ける者たちである。


全員が整列すると、大扉が静かに開く。


その奥から姿を現したのは、一人のシスター。


リリア・エル・セラフィナ。


その姿を見た瞬間、シスターズ全員が膝を付き、深く頭を垂れた。


彼女たちにとってリリアは姉であり、完成形であり、絶対の存在だった。


リリアは祭壇の前まで歩み寄ると、静かに振り返る。


礼拝堂を包む静寂。


そして、透き通るような声が響いた。


「皆さん、自らに問いなさい。あなた方は何者ですか?」


シスターズが一斉に答える。


「私たちは熱心党。熱心党のユダでございます!!」


リリアは満足そうに微笑む。


「ならばイスカリオテの皆さん。あなた方の右手にあるものは何ですか?」


「短刀と毒薬でございます!!」


「ならばイスカリオテの皆さん。あなた方の左手にあるものは何ですか?」


「銀貨三十枚と荒縄でございます!!」


リリアはゆっくりと両腕を広げる。


「ならば!! ならばイスカリオテの皆さん。あなた方は何者ですか!!」


礼拝堂を震わせるような唱和が響き渡る。


「私たちは使徒であって使徒ではございません。信徒であって信徒ではございません。教徒であって教徒ではございません。逆徒であって逆徒ではございません!!


私たちは死徒でございます。


死徒の群れでございます。


ただ伏して御主にお許しを請い。


ただ伏して御主の敵を討ち滅ぼす者でございます。


闇夜に短刀を振るい。


夕餉に毒を盛る者でございます。


私たちは刺客。


刺客のユダでございます。


時が満ちましたならば、銀貨三十枚を御神前へ投げ入れ、荒縄をもって自らの首を吊りましょう。


そして私たちは徒党を組み、地獄へと下り、隊伍を整え、七百四十万五千九百二十六柱の地獄の悪鬼へ戦いを挑みましょう!!」


しばしの静寂。


リリアはゆっくりと右手を掲げる。


その瞳には、狂気にも似た信仰が宿っていた。


「その日――黙示の日まで」


シスターズ全員が同じように右手を掲げる。


「黙示の日まで!!」


その唱和は地下礼拝堂を震わせ、まるで女神へ捧げる祈りのように、いつまでも厳かに響き続けていた。


唱和が終わると、リリアは静かに右手を下ろした。


礼拝堂へ再び静寂が訪れる。


「皆さん」


「はい」


「害虫の巣は判明しております」


その一言だけで、シスターズは全員真っ直ぐにリリアを見る。


あの日。


ミサを暗殺しようと送り込まれた暗殺者たち。


リリアは尋問と呼ぶにはあまりにも拙い尋問を行い、その代わりに暗殺ギルドの本拠地と各支部の所在地を聞き出していた。


「これより、全拠点を制圧します。一人たりとも生かして帰す必要はありません。女神の御名において、害虫を駆除いたします」


「承知いたしました」


シスターズ全員が立ち上がる。


彼女たちの手には、リリアと同じ形状の武器。


片刃剣としか認識されない異形の銃剣。


その切っ先が一斉に床へ向けられた。


「それでは」


リリアは静かに微笑む。


「参りましょう」


「Amen」


◇◇◇


その夜。


世界各地に存在していた暗殺ギルドの支部へ、白き修道服を纏う死神たちが現れた。


見張りが気付く頃には首が飛び。


見張りは音もなく絶命し。


逃げようとした者は背中から両断される。


悲鳴すら長くは続かない。


白い修道服は瞬く間に返り血で赤く染まっていった。


もちろん暗殺ギルドも抵抗した。


熟練の暗殺者。


毒。


罠。


奇襲。


あらゆる暗殺術を駆使し、シスターズを迎え撃つ。


何人ものシスターが命を落とした。


しかし。


誰一人として立ち止まらない。


仲間が倒れても。


隣で首を刎ねられても。


まるで感情を持たない人形のように。


ただ命令だけを遂行する。


倒れた者の代わりに前へ出る。


そしてまた一人。


また一人と暗殺者を斬り伏せていく。


その戦いは、一方的な殲滅戦だった。


◇◇◇


暗殺ギルド本拠地。


最深部。


血と死体で埋め尽くされた廊下の先で、一人の男が立っていた。


暗殺ギルド総帥。


ヴァルド・グレイヴ。


歴代最強とまで呼ばれた暗殺者。


数え切れない英雄を葬り去ってきた男。


しかし、その男ですら目の前の光景を理解できなかった。


「……何故だ」


返り血を浴びたシスターたち。


そして、その中心へ立つ一人。


純白の修道服。


異形の片刃剣。


ヴァルドはその姿を見た瞬間、全てを理解した。


「リリア・エル・セラフィナ……」


教会最強の処刑人。


悪魔殺し。


そして、その周囲にいる者たちも。


「まさか……シスターズまで動員したというのか」


教会が秘匿している存在。


リリア計画の失敗作たち。


それを見た瞬間、ヴァルドの背筋を冷たい汗が流れる。


「何故だ……教会に手を出した覚えはねぇ。俺たち暗殺ギルドが、一体何をしたっていうんだ」


本当に分からなかった。


教会と敵対した記憶はない。


聖国へ手を出したこともない。


何が原因で、組織そのものを滅ぼされようとしているのか。


リリアは静かに歩み寄る。


その表情は、いつもの穏やかな笑み。


「理由を教えていただけませんか」


ヴァルドは思わず問い掛けた。


リリアは立ち止まり、優しく答える。


「同居人に手を出しました」


その一言だけだった。


「……同居人?」


ヴァルドは眉をひそめる。


誰だ。


どこの誰が。


どこの愚か者が。


リリア・エル・セラフィナの同居人などという存在へ手を出した。


その答えへ辿り着くより早く。


リリアの片刃剣が一閃する。


ヴァルドの首が宙を舞った。


最後まで、自分たちが滅ぼされた理由を知ることはなかった。


その夜。


世界中へ張り巡らされていた暗殺ギルドの全拠点は陥落した。


本拠地は灰となり。


支部は一つ残らず壊滅した。


生き残りは、一人もいない。


こうして、その日を境に。


長き歴史を持つ暗殺ギルドは、この世界から完全に消滅した。


【作者からのお願い】

『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。

本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ