第五十ニ話 後始末
暗殺者たちの遺体は昼過ぎまでには全て回収され、庭へ飛び散っていた血痕も大量の水で洗い流されていった。
抉れた地面は土を入れて均され、折れた木々も伐採される。
臨時ボーナスのおかげもあり、冒険者たちは文句一つ言わず後始末を終えていった。
問題は家の中だった。
特に二階。
ミサの寝室は完全に血塗れとなり、壁や床へ血液が染み込み、窓は粉々に砕け散っている。
家具も例外ではない。
ベッド。
机。
椅子。
棚。
どれも血を吸い込み、とても使える状態ではなかった。
ガルドも部屋を一通り見回すと、小さく息を吐く。
「……これは無理だな」
「ええ」
ミサも諦めたように頷く。
掃除でどうにかなる段階ではない。
完全な事故物件だった。
「幸い、この家は持ち家です」
「なら、お前の判断で好きにできるな」
「はい。二階だけ取り壊して、新しく建て直してもらいます」
ガルドは窓枠へ手を添えながら頷く。
一階への被害は比較的少ない。
ならば二階だけを解体し、新築した方が早い。
「家具も全部買い直しか」
「……そうなります」
ミサは頭を抱えた。
ベッドも。
机も。
衣類棚も。
寝具も。
窓も。
何もかも新調である。
工事費に加え家具一式。
計算するだけで頭が痛くなる金額だった。
「……痛い出費です」
「自業自得じゃねぇけどな」
「リリアは私を守っただけですから、責めることもできません」
ミサは苦笑するしかなかった。
犯人は暗殺者。
原因は領主夫人。
しかし実際に家をここまで壊したのはリリアである。
誰を責めても解決しない問題だった。
「工事が終わるまではどうする?」
「ギルドへ泊めていただけませんか?」
「そのくらい構わねぇよ。二階の空き部屋使え」
「ありがとうございます」
これで寝床だけは確保できた。
ミサはようやく一つ肩の荷が下りた気がした。
その時だった。
「そういえば……」
ガルドが辺りを見回す。
「あいつはどこ行った?」
ミサも周囲を見渡す。
「そういえば……いませんね」
朝食を食べ終えた後、リリアはミサへ一礼すると、
「少し行くところがあります」
そうだけ言い残し、一人で家を出て行ってしまった。
行き先は聞いていない。
止める間もなかった。
ガルドとミサは顔を見合わせる。
二人の脳裏へ、全く同じ嫌な予感がよぎった。
「……ミサ」
「はい」
「嫌な予感しかしねぇ」
「奇遇ですね。私もです」
二人は同時に深いため息を吐く。
狂信者のシスターが「少し行くところがある」とだけ告げて姿を消した。
それが何事もなく終わるとは、とても思えなかった。
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