第五十一話 発覚
「……ガルドさんに、何て説明しましょうか」
ミサがそう呟いた時には、既に手遅れだった。
家の外から、村人たちのざわめく声が聞こえてくる。
「何だ、この臭い……」
「血の臭いじゃないか?」
「ミサさん、大丈夫か!」
昨夜の戦闘で流れた大量の血。
夏場ということもあり、その生臭い臭気が村中へ漂い始めていた。
異変を感じた村人が確認のためミサの家へ近付き、庭へ足を踏み入れた瞬間――。
「ひっ……!」
一人の村人が腰を抜かした。
庭一面に残る戦闘跡。
抉れた地面。
飛び散った大量の血痕。
そして。
庭の隅へ整然と並べられた十数体もの首無し死体。
「う、うわあああぁぁぁぁ!!」
悲鳴が村中へ響き渡った。
◇◇◇
騒ぎを聞き付けたガルドは、数人の冒険者を引き連れ、全速力でミサの家へ駆け付ける。
庭へ入った瞬間。
「…………」
流石のガルドも言葉を失った。
整列した首無し死体。
辺り一面へ広がる血の海。
首だけは別の場所へまとめられており、その表情はどれも恐怖と苦痛で歪んでいる。
ガルドは額へ手を当て、大きくため息を吐いた。
「……頭が痛ぇ」
その一言しか出てこなかった。
しかし、このまま放置する訳にもいかない。
「おい! 全員集合だ!」
冒険者たちが集まる。
「今日一日、通常依頼は後回しだ! 臨時ボーナスを出す! この遺体を全部片付けろ! 血痕も洗い流せ! 絶対に村人を近付けるな!」
「「「了解!」」」
臨時ボーナスという言葉に冒険者たちは頷くが、その表情は皆引き攣っている。
流石に首無し死体が十数体も並ぶ光景など見慣れている者はいない。
それでも報酬のため、そして村のために作業へ取り掛かる。
一方その頃。
ガルドはミサの家へ入り、椅子へ腰掛けるミサと向かい合っていた。
「……で?」
ミサは疲れ切った顔で額を押さえる。
「参りました」
「見りゃ分かる」
「夜中に暗殺者が侵入してきまして」
「それで?」
「リリアが全員返り討ちにしました」
「そこまでは予想できる」
「その後……尋問をしたそうです」
ガルドは黙って庭を見る。
並べられた首。
並べられた胴体。
苦痛に歪んだ表情。
「あれが尋問の結果か」
「……はい」
ミサは申し訳なさそうに俯く。
「本人は善意なんです」
「それが一番困るんだよ」
ガルドは頭を抱えた。
悪意があるなら叱ればいい。
命令違反なら処罰すればいい。
しかしリリアは本気でミサを守っただけ。
しかも、暗殺者相手である以上、正当防衛と言われれば否定もできない。
「短期間で問題が起き過ぎだろ……」
思わず本音が漏れる。
国営カジノ。
狂信者との戦闘。
領主夫人との決闘。
そして今度は暗殺者十数名の惨殺。
普通なら一生経験しない事件が、数か月で立て続けに起きている。
ガルドは大きく息を吐く。
「で、誰の差し金だ?」
「尋問の結果は聞いていませんが……」
ミサは少しだけ考え込み、静かに答えた。
「おそらく、領主夫人でしょう」
「……俺もそう思う」
この前の決闘。
最後まで敵意を隠さなかったあの視線。
あれだけでも十分怪しかった。
だが。
「まさか、暗殺者を送り込んでくるとはな……」
ガルドは呆れたように呟く。
決闘に負けた腹いせで暗殺を依頼する。
貴族として以前に、人として最低の選択だった。
「証拠はあるか?」
「ありません」
「だろうな」
尋問で何を聞き出したのかはリリアしか知らない。
だが、仮に証拠が出てきたとしても、それをどう扱うかは別問題だ。
ガルドは窓の外で遺体を運ぶ冒険者たちを見つめながら、小さく呟いた。
「……面倒なことになったな」
その言葉に、ミサも静かに頷くしかなかった。
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