第五話 受付嬢レナの
私の名前はレナ・フォルティア。
年齢は十八歳。
職業は冒険者ギルド『銀麦亭』の受付嬢。
生まれも育ちも、この辺境の町ラウルだ。
王都へ行ったことはない。
隣町までなら何度かあるけれど、それより遠くへ行ったことはほとんどない。
そんな私が毎日働いているのが、ラウル唯一の冒険者ギルド『銀麦亭』である。
ラウルは王国の辺境にある小さな町だ。
畑があり、牧場があり、森がある。
人口も少ない。
大通りを歩けば大体知り合いに会う。
子供が悪戯をすれば次の日には親に伝わる。
そんな田舎町だ。
でも私はこの町が好きだった。
春には花が咲き。
夏には川遊びができ。
秋には収穫祭があり。
冬には雪景色が広がる。
特別なものは何もない。
だけど落ち着く場所だった。
そして町の中心にあるのが冒険者ギルド『銀麦亭』である。
銀麦亭はラウルの情報が集まる場所だ。
冒険者だけではない。
商人も来る。
農家も来る。
時には領主の使いまで来る。
酒場も併設されているので昼から飲んでいる人もいる。
ギルドというより半分町の集会所だった。
そんな銀麦亭の責任者がギルドマスターのガルドだ。
大柄な中年男性。
無愛想。
口が悪い。
酒好き。
貴族嫌い。
王都嫌い。
でも面倒見はいい。
町の人たちからも信頼されている。
困ったことがあれば大体ガルドの所へ話が来る。
本人は面倒臭そうな顔をするが、結局助けてくれる。
そんな人だった。
そしてもう一人。
私の先輩受付嬢。
ミサ・レイン。
最近になって働き始めた人だ。
綺麗な人で仕事もできる。
優しい。
時々変な知識を持っている。
時々とんでもないことをやる。
この前はリバーシを作った。
さらに木工工房へ旋盤を導入した。
結果として町が少し発展した。
本人は面倒事を嫌っているが、なぜか面倒事が寄ってくる不思議な人である。
そんな私たちの仕事は受付業務だ。
依頼の受付。
報酬の支払い。
冒険者登録。
依頼書の整理。
簡単そうに見えるが意外と忙しい。
特に依頼書の管理は重要だ。
冒険者が受けた依頼を記録しなければならない。
間違えると報酬トラブルになる。
だから地味に神経を使う。
さて。
そんなラウルの冒険者たちは普段何をしているのか。
まず一番多いのは薬草採取だ。
森へ行き。
薬草を採ってくる。
初心者向け依頼の定番である。
駆け出し冒険者の大半が最初に受ける仕事だ。
次に多いのがスライム討伐。
畑を荒らしたり家畜を襲ったりするので定期的に討伐依頼が出る。
危険度は低い。
ただ放置すると増える。
だから油断できない。
ゴブリン討伐もある。
こちらは少し危険だ。
集団行動をするため油断すると怪我をする。
新人冒険者の試験のような存在でもあった。
さらにグレーウルフ。
森に生息する狼型モンスターだ。
群れで行動するため討伐には数人のパーティが必要になる。
この辺りになると中堅冒険者の仕事になる。
とはいえ。
ラウル周辺の魔物は基本的に弱い。
だから大きな事件は滅多に起きない。
たまにゴブリンが増えたり。
グレーウルフが畑へ出たり。
そんな程度だ。
もっとも。
本当にたまにだが例外もある。
ワイバーンだ。
空を飛ぶ大型魔物。
ドラゴンほどではないが十分危険。
数年に一度くらいの頻度で現れる。
畑を荒らしたり家畜を攫ったりするため、その時だけは町全体が大騒ぎになる。
冒険者総出。
騎士団も出動。
場合によっては近隣の町から応援まで呼ぶ。
ラウルで最も大きな事件と言ってもいい。
まあ。
ここ十年は出ていないらしいけど。
だから普段は平和だ。
今日も冒険者たちは依頼を受けて森へ向かう。
農家のおじさんが差し入れを持ってくる。
商人が世間話をしていく。
酒場では昼から酔っ払いが騒いでいる。
いつもの日常。
いつもの景色。
王都みたいな華やかさはない。
有名な冒険者もいない。
大商会もない。
だけど。
私はこの町が好きだ。
ラウルは今日も平和だった。
少なくとも今のところは。




