第四十四話 勇者パーティー
「いただきます」
「いただきます!」
ミサとリリアは向かい合い、夕食を食べ始める。
「美味しいですね」
「ありがとうございます!」
褒められたリリアは嬉しそうに笑う。
先ほどまでの不安そうな表情はどこへやら。
今は尻尾でも生えていれば勢いよく振っていそうなほど機嫌が良かった。
そんな穏やかな時間を破るように。
コンコン。
玄関が叩かれる。
「ミサ、いるか」
聞き慣れた声だった。
「ガルドさんですね」
ミサが立ち上がる。
リリアの表情が一変した。
先ほどまでの柔らかな笑顔は消え失せ、獲物を睨む猛獣のような目付きになる。
「……敵」
「リリア」
「敵です」
そう言いながら玄関へ向かう。
ミサも後を追う。
扉を開けると、腕を組んだガルドが立っていた。
「よう」
「こんばんは」
「身体の具合を見に来た」
そう言うと、ガルドはそのまま家の中へ入る。
リリアはガルドの前へ立ちはだかり、猫が威嚇するように低く唸った。
「うぅぅぅ……」
「相変わらずだな」
ガルドは気にした様子もなく、そのままテーブルの席へ腰を下ろす。
「夕飯中だったか」
「はい」
「なら邪魔しねぇ程度に話を聞く」
そう言ってテーブルに並んだ料理へ手を伸ばした。
ヒュンッ!!
銀色の閃光が走る。
ドスッ!!
リリアが投げた包丁がガルドの手を狙う。
しかし。
ガキィン!!
魔装を纏ったガルドの腕に弾かれ、包丁は床へ転がった。
「私の勇者様のご飯です。勝手に食べないでください」
リリアは鋭く睨み付ける。
ガルドは呆れたようにため息を吐いた。
「食うつもりじゃねぇよ。料理がどんなもんか見ただけだ」
「信用できません」
再び包丁を拾おうとするリリアを、ミサが慌てて止める。
「リリア」
「でも……」
「駄目です」
「うぅぅ……」
不満そうに唸りながらも、リリアは包丁を置き、それでもガルドを睨み続ける。
「完全に敵認定されてますね」
「それだけ元気なら安心だ」
ミサは苦笑しながら席へ戻る。
「それで、今日はどういったご用件ですか?」
ガルドは真剣な表情になる。
「勇者パーティーについて聞きに来た。リリア一人でこの有様だ。他の連中が今どこで何してるのか知っておきてぇ」
その言葉にミサも表情を引き締めた。
「分かりました」
少し昔を思い出すように目を閉じ、静かに話し始める。
「当時の勇者パーティーは四人でした」
「私」
「リリア」
「そして、あと二人です」
ガルドは黙って耳を傾ける。
「一人は冒険者ギルドから派遣されたエルフの女性。名前はセレスティア・ルーンフェルト。当時の役職は、冒険者ギルド総マスター直属、右腕兼参謀総長。勇者パーティーでは参謀役を務め、後方支援と戦況分析、広域殲滅魔法を担当していました。魔法使いとしても当代最高峰の実力者で、数少ないSランク冒険者です」
ガルドは静かに頷く。
「ああ、その名前は知ってる。総マスターの右腕にして参謀総長。Sランク冒険者の中でも頭一つ抜けた魔法使いだ。俺でも名前くらいは聞いたことがある」
ミサは続ける。
「もう一人は王国から派遣された近衛騎士。名前はレオンハルト・ヴァイス。近衛騎士団第一番隊副団長でした。勇者パーティーでは前衛兼盾役。私とリリアが自由に戦えるよう、最前線で敵を引き受け続けた人です。防御に関しては、あの人以上を私は知りません」
ガルドは腕を組む。
「勇者、聖職者、参謀兼魔法使い、タンク。随分とバランスの取れたパーティーだったんだな」
「はい」
ミサは小さく頷く。
「ですが、それはあくまで当時の話です。今も同じ役職なのか、今どこで何をしているのか。それは私にも分かりません。勇者パーティー解散後、一度も会っていませんから」
部屋に静かな空気が流れる。
ガルドは腕を組んだまま、深く息を吐いた。
「少なくとも、生きてる可能性が高い化け物があと二人」
「リリアに比べたらまだマシですよ」
「そうかい」
ミサは静かに答える。
「二人とも、間違いなく英雄でした」
その言葉を最後に、しばらく三人の間に沈黙が流れる。
テーブルの上では、先ほどまで温かかった料理から静かに湯気が立ち上っていた。




