第四十一話 休養
翌日。
村は今日もいつも通りだった。
子どもたちは元気に走り回り。
商人は店を開き。
畑では農夫たちが汗を流している。
平和そのもの。
ただ一か所だけ。
普段とは違う場所があった。
冒険者ギルドである。
「おい、ミサさんは?」
「今日は受付いないのか?」
「休みか?」
朝から冒険者たちがざわついていた。
受付に立っているのはエリナ一人。
いつもなら隣にいるはずのミサの姿が無い。
対応に追われるエリナを見かねたガルドが奥から姿を現した。
「騒ぐな」
一言でギルドが静まる。
「ミサは当分休みだ」
その言葉に冒険者たちがどよめく。
「何かあったのか?」
「昨日、暴漢に襲われた」
その場の空気が一変した。
「誰だそいつ!」
「ぶっ飛ばしてやる!」
「俺たちも行く!」
椅子を蹴飛ばし立ち上がる冒険者たち。
しかし。
ガルドは鼻で笑った。
「やめとけ」
「何でだ!」
ガルドは腕を組み、静かに口を開く。
「朝から報告が何件も上がってきてるだろ」
「ああ……森の方が滅茶苦茶になってるって話か」
「あれだ」
一瞬。
ギルド内が静まり返る。
「あそこは」
「ミサと暴漢が戦った跡だ」
誰も言葉を失った。
森が消え。
地面は抉れ。
木々は薙ぎ倒されていた。
冒険者全員が見に行ったわけではない。
だが。
報告だけでも異常さは伝わっていた。
「お前ら」
ガルドは一人一人を見る。
「そんな相手に勝てると思うか?」
誰も答えない。
「瞬きした瞬間、ミンチになって終わりだ」
重い沈黙が流れる。
「だから、この件には首を突っ込むな。ミサは当分休養だ。分かったな?」
誰も反論しなかった。
ガルドがそこまで言う相手なのだ。
自分たちではどうにもならない。
そう理解したからだった。
◇ ◇ ◇
一方その頃。
ミサの自宅。
ベッドの上で。
ミサは苦しそうにうなされていた。
「っ……」
呼吸は浅い。
額には汗。
顔色も悪い。
原因は明白だった。
『Self Acceleration』
肉体。
思考。
知覚。
反射。
その全てを強制的に加速するミサが編み出した術式。
あまりにも身体への負荷が大きい。
リリアとの戦闘には勝った。
しかし。
代償も大きかった。
内臓機能の一部が損傷。
現在は自己回復能力によって少しずつ治癒しているものの、まだ起き上がることすら難しい状態だった。
そんなミサの額へ。
濡れた布がそっと乗せられる。
「勇者様……」
優しく。
慈しむような声。
ミサの傍らに座っていたのは。
リリアだった。
首には奴隷の首輪。
両手両足には。
魔力使用を封じる枷。
完全に拘束された状態である。
それでも。
彼女は嬉しそうだった。
濡れた布を交換し。
静かにミサの手を握る。
「早く元気になってください……」
「勇者様……」
その瞳には。
狂気にも似た愛情だけが宿っていた。




