第四十話 Self Acceleration: Double
ガシッ。
ミサは飛来した二丁の魔銃『フェンリル』を握る。
長く離れていた相棒。
その重みが手に馴染む。
ガルドは一歩下がる。
リリアは六本の銃剣を構えた。
互いに視線が交差する。
先に動いたのは。
ミサだった。
フェンリルを持ち上げる。
そして。
静かに術式を唱える。
「――Self Acceleration: Double」
その直後。
銃口を自らのこめかみに当てる。
迷いは無い。
引き金を引いた。
――パンッ。
魔力弾が頭部へ撃ち込まれる。
ドクン。
心臓が大きく脈打った。
瞬間。
世界が変わる。
風が止まる。
舞い落ちていた木の葉が空中で止まったように見える。
ガルドの動き。
リリアの呼吸。
全てが。
ゆっくりになる。
いや。
ミサだけが加速したのだ。
思考。
知覚。
反射。
身体能力。
その全てが倍加される。
だからこそ。
周囲の時間は極端に遅く感じる。
ガルドが何か叫ぶ。
しかし。
「がぁぁぁぁぁ……」
そんな風にしか聞こえない。
低速再生されたような声。
言葉にならない。
ミサは軽く肩を竦める。
「やっぱり会話は無理ですね」
ガルドへ向かって叫ぶ。
「ギルマス!」
ガルドがこちらを見る。
「自己加速中は会話できません!」
返事が返ってくる。
だが。
やはり聞き取れない。
ミサは親指を立てる。
「解除したら説明します!」
そして。
視線をリリアへ向けた。
「さて」
「リリア」
「少し大人しくしてください」
次の瞬間。
ミサが消えた。
ガルドの目でも追えない速度。
フェンリルを構える。
そして。
引き金を引いた。
――ドォォォォォン!!
轟音。
砲撃。
放たれた魔力弾は、大砲にも匹敵する威力を持つ。
リリアは即座に迎撃へ移る。
六本の銃剣を振るい。
魔力弾を切り裂こうとする。
「はぁぁぁっ!!」
激突。
次の瞬間。
バキィィィィン!!
砕けたのは。
魔力弾ではない。
銃剣だった。
オリハルコン製の対魔銃剣が。
砲撃にも等しい魔力弾に耐え切れず。
粉々に砕け散る。
「……え?」
リリアが初めて驚愕の表情を浮かべる。
ミサは止まらない。
二発目。
ドォォォォン!!
三発目。
ドォォォォン!!
残る銃剣も。
迎撃する度に砕け散る。
四本。
五本。
六本。
全て。
粉砕された。
リリアは武器を失う。
その一瞬。
ミサは地面を蹴った。
視界から消える。
次に現れたのは。
リリアの懐だった。
「しまっ――」
言い終わる前に。
ミサは腕を取り。
身体を捻る。
関節を極める。
重心を崩す。
柔術。
投げ。
そのまま地面へ叩き付けた。
ドンッ!!
リリアの背中が地面へ沈む。
すぐさま立ち上がろうとする。
しかし。
ミサは逃がさない。
腕を絡め。
脚で下半身を固定する。
完全な拘束術。
リリアの動きが止まる。
「勇者様……」
それでも。
嬉しそうだった。
「触れてくださいました……」
「黙ってください」
ミサは冷静に答える。
そして。
腕を首へ回した。
裸絞。
頸動脈を正確に圧迫する。
気道ではない。
血流だけを遮断する。
リリアは暴れる。
しかし。
加速したミサからは逃れられない。
数秒。
数十秒にも感じる静寂。
リリアの抵抗が弱くなる。
やがて。
身体から力が抜けた。
「……勇者……様……」
最後まで嬉しそうに微笑み。
そのまま意識を失う。
ミサはゆっくりと拘束を解いた。
そして深く息を吐く。
「ふぅ……」
殺してはいない。
ただ眠らせただけだ。
かつて。
共に魔王軍と戦った仲間。
狂ってしまったとしても。
ミサには。
リリアを殺すという選択肢だけは。
最後まで存在しなかった。




