第三十九話 神器
ドゴォォォォン!!
雷が森を薙ぎ払う。
バキバキバキッ!!
木々が吹き飛び。
大地が抉れ。
衝撃波が周囲へ広がる。
それだけの戦闘が行われている。
にも関わらず。
誰も来ない。
村人も。
冒険者も。
誰一人として様子を見に来なかった。
「……?」
ミサは違和感を覚えた。
いくら夕暮れとはいえ異常だった。
ガルドとリリアの戦闘は小規模な災害だ。
普通ならとっくに誰かが駆け付けている。
だが。
誰も来ない。
「まさか」
ミサは目に魔力を集中させる。
視界が変化する。
そして。
周囲を覆う魔力の膜を発見した。
「結界……」
ミサの顔が険しくなる。
しかも。
ただの結界ではない。
高度な人払い。
さらに防音結界。
複数の術式が重ね掛けされている。
「リリア」
ミサは呟く。
勇者パーティーの神官。
高位神聖術師。
この程度の結界なら張れて当然だった。
「最初から準備済みですか……」
完全な計画犯だった。
一方。
前線では。
ガルドが顔を歪めていた。
ドゴォォォン!!
拳が炸裂する。
リリアの肋骨が砕ける。
肺が潰れる。
身体が吹き飛ぶ。
だが。
数秒後。
祈り。
光。
完全回復。
何度目かも分からない光景だった。
「チッ」
ガルドが舌打ちする。
気味が悪い。
本当に気味が悪い。
いくら殴っても。
壊しても。
潰しても。
立ち上がる。
まるで不死身だった。
「小娘!」
ガルドが叫ぶ。
「こいつ本当に人間か!?」
ミサは即答した。
「人間ですよ!」
「それが一番怖ぇんだよ!!」
ガルドの怒鳴り声が響く。
そして。
リリアは微笑む。
口元を血で染めながら。
恋する乙女のように。
「勇者様」
「終わったら帰りましょう」
「嫌です」
即答だった。
ガルドが再び吹き飛ばす。
ドゴォォォォン!!
今度は頭部以外を半壊させる勢いだった。
だが。
光。
回復。
完全再生。
再び立ち上がる。
その姿に。
流石のガルドも恐怖を覚え始めていた。
「おい」
「何ですか?」
「殺し方はあるんだろうな?」
ミサは少し考えた。
そして。
断言する。
「頭です」
「頭?」
「脳を完全破壊してください」
ガルドが眉をひそめる。
ミサは続けた。
「リリアは痛みを感じません」
「心臓が潰れても動きます」
「肺が無くなっても戦えます」
「内臓を全部吹き飛ばしても回復します」
「だから」
ミサはリリアを見る。
「頭を破壊するしかありません」
沈黙。
ガルドは心底嫌そうな顔をした。
「それもう回復魔法じゃねぇだろ」
「私もそう思います」
もはや別物だった。
生命維持。
再生。
蘇生。
そんな領域に片足を突っ込んでいる。
「面倒臭ぇな」
ガルドは肩を回した。
ゴキゴキと音が鳴る。
そして。
決意したように呟く。
「『神器』を使うしかねぇか……」
その言葉に。
ミサの顔色が変わった。
「ちょっと待ってください」
「ん?」
「それだけは勘弁してください」
ガルドが持つ神器。
雷神の加護を宿した戦闘用神器。
雷を纏う神具。
ガントレット。
その威力は知っている。
使えば勝てるだろう。
だが。
この森ごと吹き飛ぶ。
最悪。
村まで被害が及ぶ。
「大丈夫だ」
ガルドは笑う。
「多分半径数キロで済む」
「全然大丈夫じゃないんですよ!!」
ミサは頭を抱えた。
この脳筋。
本気でやる気だ。
そして。
諦めた。
「仕方ありません」
ミサは空へ向かって叫ぶ。
「フェンリル!!」
その瞬間だった。
遥か村の方角。
爆音が響く。
ドガァァァァン!!
何かが建物を突き破った。
次の瞬間。
夜空を二つの光が駆け抜ける。
一直線。
流星のように。
ミサの元へ。
ガルドが目を見開く。
「何だありゃ」
答えはすぐに現れた。
二丁の銃。
黒銀の魔銃。
勇者専用武装。
『フェンリル』
ミサの部屋。
二階の窓を盛大に突き破り。
壁を破壊し。
家具を吹き飛ばし。
一直線に飛来したのだ。
ガシッ。
ミサはそれを両手で受け止める。
長らく離れていた相棒。
手に馴染む重さ。
心地良い感覚。
そして。
リリアの瞳が輝いた。
「勇者様……」
うっとりとした表情。
頬が赤く染まる。
完全武装したミサを見て。
さらに惚れ直していた。
「素敵です……」
「そういう反応はいらないんですよ」
ミサは深いため息を吐く。
そして。
フェンリルを構えた。
久々の本気の戦闘が始まろうとしていた。




