第三十四話 閑話 王都会議Ⅱ
重苦しい沈黙が続く。
勇者は生存している。
どこかの貴族に匿われている可能性が高い。
そこまでは結論が出た。
しかし。
問題はその先だった。
国王が机を指で叩く。
「では、この件を今後どう扱う?」
その一言で会議は次の議題へ移る。
王国側の被害。
それについてだ。
「現在、国営カジノ襲撃の情報は既に広まっています」
王国側の騎士が報告する。
「民衆には賊による襲撃事件として発表済みです」
「悪魔については?」
国王が尋ねる。
「伏せています」
当然だった。
国営施設が長年悪魔に乗っ取られていた。
そんな事実が広まれば大混乱になる。
王国への信頼も失墜する。
そのため。
現在公表されているのは、
『国営カジノが正体不明の襲撃者によって壊滅した』
という部分だけだった。
「各貴族からの反応は?」
「かなり厳しいものとなっております」
報告した騎士も苦い顔をする。
それも当然だった。
国営カジノは最近になって設立された施設だ。
莫大な利益を生み出すと宣伝され。
王都の有力貴族たちも多額の出資を行っていた。
国が運営する以上、安全。
そう信じていたのだ。
実際。
開業してからの利益は凄まじく。
出資した貴族たちは更なる投資を行っていた。
だが。
その施設が襲撃された。
建物は半壊。
設備は壊滅。
営業再開の目途も立たない。
当然。
投資していた貴族たちは激怒していた。
「損失補填を求める声も上がっています」
騎士が続ける。
「中には犯人の首を差し出せと騒ぐ者も」
国王は深くため息を吐いた。
犯人が勇者であること。
そして。
その裏で悪魔が暗躍していたこと。
それを説明できれば話は変わる。
だが。
悪魔の件はまだ伏せている。
今公表すれば王国そのものが混乱する。
結果として。
国王は貴族たちからの突き上げを一身に受けることになっていた。
「神殿側はどうだ?」
国王が聖女へ視線を向ける。
聖女は静かに資料を閉じた。
「神殿としては、勇者の保護も重要ですが」
そこで一度言葉を区切る。
「最優先事項は聖剣の返還です」
会議室が静まり返る。
総マスターが眉をひそめた。
「返還?」
「はい」
聖女は当然のように頷く。
「聖剣は神殿の所有物です」
勇者に与えられる。
だが。
それは譲渡ではない。
貸与だ。
勇者が役目を終えれば返還されるべき神殿の秘宝。
それが聖剣だった。
「現在、勇者様は行方不明」
「つまり神殿の管理下にない状態です」
聖女の口調は穏やかだった。
だが。
内容はかなり厳しい。
「神殿としては勇者様との接触を行い、聖剣の返還交渉を行いたいと考えています」
「交渉、ねぇ」
総マスターが呟く。
「応じると思うか?」
聖女は少しだけ沈黙した。
そして。
「難しいでしょう」
素直に認めた。
勇者が王国や神殿へ良い感情を持っていないことは明白だった。
だが。
それでも動かなければならない。
聖剣は神殿の象徴。
放置する訳にはいかなかった。
国王も複雑そうな顔をする。
「今代の勇者は聖剣を主武装としていないのだろう?」
「はい」
聖女は頷く。
「主武装は銃です」
この世界には存在しない未知の武器。
しかし。
だからといって問題が消える訳ではない。
「使っていようがいまいが、聖剣は聖剣です」
聖女は真面目に言った。
総マスターは頭を掻く。
「返還要求を出した結果、さらに逃げられたらどうする?」
「……その可能性もあります」
否定できなかった。
むしろ高い。
今の勇者なら。
「なら俺は反対だな」
総マスターが言い切る。
「今代の勇者は人類側だ」
「少なくとも今回の件を見る限りな」
悪魔を殲滅した。
それだけで十分だった。
敵ではない。
ならば。
刺激するべきではない。
「神殿の事情も理解できる」
「だが今は接触を優先するべきだ」
聖女は黙り込む。
それも正論だった。
聖剣の回収。
勇者との関係修復。
どちらを優先するか。
簡単な問題ではない。
会議はその後も続いた。
だが。
誰も気付いていない。
当の勇者は。
聖剣返還問題など知る由もなく。
「久々の仕事ですねぇ……」
と呟きながら、
地方の小さな冒険者ギルドへ出勤している最中なのだから。
しかも。
神殿が必死に返還を求めている聖剣は。
今や二階の窓辺で埃を被っていた。




