第三十三話 閑話 王都会議
国営カジノ襲撃事件。
その報告は数日後には王都へ届いていた。
そして。
国王は頭を抱えていた。
「被害状況を報告しろ」
玉座の間。
重苦しい空気が漂う。
報告役の騎士が震える声で口を開く。
「建物は半壊。内部設備はほぼ全滅です」
「人的被害は?」
「従業員及び護衛全員死亡です」
国王は目を閉じた。
ここまでは想定内だった。
問題はその先である。
「確認された悪魔の数は?」
「二百三十七体です」
部屋が静まり返った。
国王は深いため息を吐く。
今回の事件で最も問題なのは施設が壊されたことではない。
死者の数でもない。
国営カジノを運営していた者たちが全員悪魔だったことだ。
それが問題だった。
魔王討伐後。
姿を消したはずの悪魔たち。
その残党が長年に渡り人間社会へ潜伏していた。
しかも国営施設にまで入り込んでいた。
もはや笑い話では済まされない。
「神殿には?」
「既に通達済みです」
「よし」
悪魔が関わる以上。
情報を伏せるという選択肢は存在しなかった。
万が一にも見落としがあれば。
第二、第三の被害が発生する。
だからこそ。
王国は神殿と冒険者ギルドへ正式な協力を要請した。
そして数日後。
調査結果を持ち寄るため。
王都で緊急会議が開かれることとなった。
◇
集まったのは三勢力。
王国。
神殿。
冒険者ギルド。
それぞれ代表者と護衛二名ずつ。
国王。
聖女。
冒険者ギルド総マスター。
王国最高権力者たちが一堂に会していた。
まず最初に王国側が報告を行う。
「現場の聞き込み及び目撃証言から、犯人は若い令嬢であることが判明した」
国王が資料を机へ置く。
「ただし身元は不明だ」
仮面。
ドレス。
完璧な所作。
そして高級馬車。
目撃者たちの証言は一致していた。
犯人はどこからどう見ても上流階級の令嬢だった。
「素顔を見た者は?」
「おりません」
護衛騎士が答える。
「全員、仮面姿だったと証言しております」
国王は頷く。
「つまり正体不明か」
次に神殿側の報告となる。
聖女が資料を開いた。
「こちらは現場に残された悪魔の死体及び魔力残滓を調査しました」
神殿騎士が数枚の資料を並べる。
「結論から申し上げます」
一拍置く。
「今代の勇者の痕跡を確認しました」
空気が変わる。
国王が目を細める。
総マスターも腕を組んだ。
「確かなのか?」
「はい」
聖女は迷いなく答える。
「今代の勇者は銃と呼ばれる未知の武器を使用しています」
この世界には、銃は存在しない。
そのため、現場に残った痕で、それが勇者が戦った痕と一致したのだ。
さらに、神殿は勇者の魔力を把握している。
現場に残された魔力残滓。
悪魔の死体に残された特殊な魔力反応。
それらは勇者本人のものと一致した。
「間違いなく今代の勇者です」
その言葉に誰も反論しない。
勇者が生きていることは全員知っていたからだ。
問題は居場所だけだった。
そして最後に。
冒険者ギルド側の報告となる。
総マスターが資料を机へ置く。
「こちらは聞き込みと追跡魔術を行った」
「結果は?」
国王が尋ねる。
総マスターは渋い顔をする。
「途中までは追えた」
だが。
そこで終わりだった。
「完全に足取りが消えた」
「転移か?」
護衛の一人が尋ねる。
総マスターは首を横に振った。
「その線も調べた」
転移魔術の痕跡。
魔力残滓。
周辺調査。
全て行った。
だが何もない。
「転移ではない」
「では何故消えた?」
「分からん」
それが結論だった。
途中までは追えた。
しかし。
ある地点を境に完全に痕跡が途絶えた。
聞き込みも。
追跡魔術も。
全て無意味だった。
「少なくとも生きていることは確実だ」
総マスターが続ける。
冒険者ギルド本部には。
全ての冒険者カードの複製が保管されている。
当然。
勇者のカードも例外ではない。
カードの背景が消えれば死亡。
だが。
勇者のカードは今も正常だった。
つまり生存確定である。
会議室に沈黙が落ちる。
そして。
その沈黙を破ったのは聖女だった。
「一つ気になることがあります」
全員の視線が向く。
「何だ?」
国王が促す。
「今回の勇者は令嬢として潜入しました」
聖女は資料をめくる。
「高級ドレス」
「高級装飾品」
「専用馬車」
「そして完璧な身分偽装」
どれも個人で即座に用意できるものではない。
まして。
現在逃亡中の勇者である。
なおさらだ。
「つまり?」
国王が先を促す。
聖女は静かに答えた。
「勇者は現在、どこかの貴族の庇護下にある可能性があります」
その言葉に全員が黙り込む。
確かに筋は通る。
ドレスも。
装飾品も。
馬車も。
有力貴族なら簡単に用意できる。
「匿われている、と?」
「可能性は高いかと」
総マスターも腕を組む。
「なるほどな」
国王も否定しなかった。
むしろ。
最も現実的な推測だった。
こうして。
王国。
神殿。
冒険者ギルド。
三勢力は一つの結論へ辿り着く。
勇者は生存している。
そして。
どこかの貴族の保護を受けている可能性が高い。
だが。
その貴族が誰なのか。
どこにいるのか。
それだけは分からなかった。
当然である。
その勇者は今頃。
地方の小さな領地で。
領主館の三階から脱走し。
何事もなかったかのように冒険者ギルドへ帰ろうとしているのだから。
誰も。
想像すらしていなかった。




