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第三十話 代償

目が覚めた。


だが。


ミサは起き上がることが出来なかった。


「……あー」


天井を見上げる。


身体が重い。


腕も。


脚も。


指先ですらまともに動かしたくない。


全身が悲鳴を上げていた。


昨日の戦闘。


あの悪魔共との戦いで消費した魔力の反動だった。


「やり過ぎた……」


ぼそりと呟く。


普段ならここまで消耗することはない。


だが今回は違った。


悪魔の数が多過ぎた。


しかも上位種まで混ざっていた。


その結果。


ミサは久しぶりに本気で戦うことになったのだ。


――なぜ勇者が必要なのか。


その理由を知らない者は多い。


この世界において。


悪魔という種族はエルフに次いで魔力の扱いに長けた種族だった。


魔法。


身体強化。


魔力操作。


その全てにおいて人族を上回る。


だからこそ。


人族は悪魔に勝てなかった。


悪魔の先兵。


たったそれだけですら倒せない者が大半だった。


そこで考え出されたのが勇者召喚。


異世界人を呼び出す儀式。


そして。


異世界人だけが扱える聖剣。


その二つだった。


聖剣は特殊な武器である。


元々強力な魔力を宿している。


故に悪魔へ有効打を与えられる。


普通の剣では傷すら付けられない相手でも。


聖剣なら斬れる。


だから勇者は必要だった。


そして。


その聖剣とほぼ同じ領域へ到達した者たちが存在する。


冒険者ランクS。


人類最強格と呼ばれる怪物たち。


彼らは聖剣などなくとも悪魔を討伐できる。


理由は単純。


魔装と纏い。


その二つを極めているからだ。


そして。


ミサもまたその領域にいる。


昨日の戦い。


フェンリルから放たれた銃弾。


あれはただの銃弾ではない。


一発一発に纏いを施していた。


風。


雷。


炎。


氷。


様々な性質を付与しながら撃ち出していたのだ。


風の性質なら貫通力を上げる。


雷の性質なら追尾性能を持たせる。


状況によって使い分ける。


だからこそ悪魔を一方的に狩れた。


それだけではない。


空中戦も同様だった。


空中を蹴っていた訳ではない。


自身の足元へ魔力を集中させ。


瞬間的な足場を作っていたのだ。


魔力制御の応用。


常人には到底真似できない芸当だった。


だが。


当然代償もある。


膨大な魔力消費。


極限の集中力。


身体への負荷。


昨日のミサはそれらを全て無視して戦った。


結果。


現在。


ベッドの上で動けなくなっている。


「……最悪」


身体を起こそうとする。


失敗。


肩に力を入れる。


失敗。


脚を動かそうとする。


失敗。


完全にガス欠だった。


「今日は無理ですね……」


諦めた。


そして再び天井を見る。


領主館の客室。


静かな朝。


窓から差し込む日差し。


その平和な光景とは裏腹に。


新聞では大騒ぎになっていることだろう。


壊滅したカジノ。


大量の悪魔の死体。


正体不明の襲撃者。


だが。


そんなことはどうでもよかった。


今のミサにとって重要なのは一つだけ。


「……お腹空いた」


ぐぅぅぅ。


腹が鳴る。


しかし。


食堂へ行くことも出来ない。


誰かが来るまで待つしかない。


元勇者。


元Sランク冒険者。


現受付嬢。


そんな彼女は今。


悪魔を虐殺した翌日とは思えないほど情けない姿でベッドに沈んでいた。


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