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第二十六話 一夜だけのお嬢様

再び領主館へ足を運ぶことになったミサ。


応接室には領主とエリナが待っていた。


「来てくれたか」


「報酬次第です」


開口一番だった。


領主は苦笑する。


「相変わらずだな」


「労働には対価が必要ですので」


営業スマイルを浮かべるミサ。


そんな彼女に領主は現在判明している情報を説明した。


問題となっている施設。


通称――カジノ。


表向きは合法。


国から正式な許可を得て営業している施設だった。


そのため領主でも簡単には手を出せない。


「一般客が利用する区域は普通の娯楽施設だ」


領主が資料を机に置く。


「だが問題はその奥にある」


「高額レートの卓ですか」


ミサが資料に目を通しながら答える。


「そうだ」


領主は頷く。


エリナも悔しそうな顔になる。


「最初は皆、表の卓で遊びますの」


「そして勝ったり負けたりを繰り返しているうちに、もっと大きく勝てると言われて奥へ案内されるのですわ」


「そこで人生を壊されると」


「ええ」


借金。


財産の売却。


闇金。


既に多くの被害者が出ていた。


しかし違法性を証明できない。


だから取り締まれない。


説明を聞き終えたミサは椅子にもたれた。


そして静かに言う。


「条件があります」


領主とエリナが顔を見合わせる。


「報酬は?」


「ドレス」


「は?」


「装飾品」


「は?」


「その他必要経費一式」


エリナが目を瞬かせた。


「それだけですの?」


「それだけではありません」


ミサは指を一本立てる。


そして。


「この後起こることに、一切口を出さないこと」


応接室の空気が変わった。


領主が目を細める。


「何をするつもりだ?」


ミサは答えない。


営業スマイルを浮かべたまま見つめ返す。


その瞬間。


領主は理解した。


聞かない方がいい。


いや。


聞いてはいけない。


聞けば止めなければならなくなる。


そして、この女は止まらない。


数秒の沈黙の後。


領主は大きくため息を吐いた。


「……分かった」


「ありがとうございます」


「ただし死ぬな」


「善処します」


「不安になる返事だな」


領主は頭を抱えた。


その後。


急遽、支度屋が呼ばれた。


数時間後。


領主館はちょっとした騒ぎになっていた。


「こちらをお召しくださいませ」


「髪はこちらで整えます」


「化粧も必要ですね」


普段の受付嬢姿とはまるで違う。


ミサは完全に着せ替え人形状態だった。


そして。


全ての支度が終わる。


鏡の前に立つミサ。


そこにいたのは受付嬢ではなかった。


どこかの大貴族の令嬢。


そう言われても誰も疑わない姿だった。


「……」


エリナが思わず見惚れる。


「綺麗……」


自然と口から零れた言葉だった。


ミサが首を傾げる。


「そうですか?」


「そうですわ!」


エリナは力強く頷いた。


「正直、悔しいくらいですわ!」


「褒め言葉として受け取っておきます」


営業スマイルで返すミサ。


エリナは本気だった。


普段は地味な受付嬢。


だが着飾ったミサは、自分と並んでも全く見劣りしない。


むしろ堂々とした立ち姿だけなら負けている気さえした。


「何で受付嬢なんてやっていますの……」


「定時で帰れるからです」


「聞いた私が馬鹿でしたわ」


いつものやり取りだった。


その後。


ミサは部屋へ移動する。


鞄を開く。


中から取り出したのは二丁の銃。


『フェンリル』


この世界には存在しない武器。


慣れた手付きで太ももへホルスターを装着する。


ドレスの内側。


外からは見えない位置。


そこへフェンリルを収納した。


立つ。


歩く。


座る。


違和感はない。


裾を整える。


完全に隠れていた。


「よし」


ミサは鏡へ視線を向ける。


誰が見ても令嬢。


しかし中身は違う。


玄関では馬車が待機していた。


領主が腕を組みながら立っている。


「本当に行くのか?」


「ええ」


ミサは当然のように答えた。


「調査か?」


「いいえ」


営業スマイル。


しかし目だけは笑っていない。


「潰しに行きます」


領主とエリナが固まった。


沈黙。


だが二人とも何も聞かなかった。


いや。


聞けなかった。


先ほどミサが提示した条件を思い出したからだ。


――この後起こることに、一切口を出さないこと。


領主は深くため息を吐く。


「だから聞くなと言ったのか」


「はい」


ミサは即答する。


「聞けば止めたくなりますから」


「止まる気は?」


「ありません」


これまた即答だった。


領主は頭を抱える。


エリナも苦笑した。


もう止められない。


それが分かっていた。


「……死ぬなよ」


領主が最後に言う。


ミサは馬車へ乗り込みながら答えた。


「善処します」


やはりその返事だった。


馬車の扉が閉まる。


ゆっくりと動き出す馬車。


向かう先は隣町。


数多くの人間を破滅させた場所。


通称――カジノ。


一夜だけのお嬢様となった元勇者は。


静かに、その巣穴を潰しに向かうのだった。


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