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第二十五話 被害甚大

酔っ払いの男から事情を聞いてから数日後。


ミサの嫌な予感は見事に的中した。


しかも予想以上に最悪な形で。


「またか……」


ミサは報告書を見ながら頭を押さえた。


冒険者ギルドでは連日問題が発生していた。


原因は全て同じ。


ギャンブルである。


パーティ資金を勝手に持ち出した者。


装備更新用の積立金を使い込んだ者。


挙句の果てには闇金へ手を出した者まで現れ始めた。


ギルド側も注意喚起を行っている。


しかし。


既に中毒になった者にはほとんど効果が無かった。


「勝てば返せる」


「次は勝てる」


そんな言葉ばかりが飛び交う。


完全に泥沼だった。


「面倒ですねぇ……」


ミサは珍しく疲れた顔をした。


そんな昼過ぎだった。


ギルドへ一人の来客が現れる。


「ミサさん!」


聞き覚えのある声。


振り返ると、そこにはエリナが立っていた。


いつもの余裕はなく、明らかに焦っている。


「珍しいですね」


営業スマイルで迎えるミサ。


「どうしました?」


「助けてください!」


開口一番だった。


ミサは嫌な予感を覚えながら話を聞く。


そして。


話を聞き終えたミサは盛大にため息を吐いた。


「……はぁ」


問題は冒険者だけではなかった。


屋敷の使用人。


騎士団員。


事務官。


次々とギャンブルへ手を出していたのだ。


さらに。


一部の者は屋敷の資金へまで手を伸ばそうとしていた。


幸い。


実際に使われる前に発覚した。


領主も即座に処分を下し、被害は未遂で終わった。


だが。


それで済む話ではない。


「摘発は?」


ミサが尋ねる。


エリナは首を横に振った。


「無理ですわ」


「何故です?」


「国営だからです」


その瞬間。


ミサの顔が盛大に歪んだ。


「……は?」


思わず聞き返す。


「国営ですわ」


エリナも苦々しい顔になる。


「正式な許可を得て営業しています」


「ですから領主でも簡単には手を出せません」


ミサはこめかみを押さえた。


「頭が痛くなってきました」


違法なら潰せばいい。


だが合法となると話は別だ。


領主ですら強く動けない。


「注意喚起は?」


「していますわ」


「効果は?」


エリナは黙った。


その反応だけで十分だった。


既に手遅れになりかけている。


ミサはしばらく考える。


非常に面倒だった。


本音を言えば関わりたくない。


だが放置した場合。


被害はさらに広がる。


冒険者ギルド。


領主館。


村。


領地全体。


確実に巻き込まれる。


「……仕方ありませんね」


ミサは立ち上がった。


エリナの顔が明るくなる。


「手伝っていただけますの!?」


「勘違いしないでください」


ミサは指を一本立てた。


「タダ働きはするつもりはありませんよ」


営業スマイル。


だが目は笑っていない。


「報酬のツケは領主に貰いますから」


「お父様なら喜んで払いますわ!」


即答だった。


よほど困っているらしい。


「では準備してきます」


そう言ってミサはギルドマスター室へ向かった。


ノックもせずに扉を開く。


「何だ?」


書類仕事をしていたガルドが顔を上げる。


「数日休みます」


「は?」


いつも通り突然だった。


ミサは事情を説明する。


ギャンブル被害。


領主館への影響。


そしてエリナからの依頼。


話を聞き終えたガルドは大きくため息を吐いた。


「なるほどな」


腕を組む。


「確かに放置できる話じゃねぇ」


「でしょう?」


「だがな」


ガルドの表情が険しくなる。


「相手は国営だぞ」


ミサは肩を竦めた。


「知っていますよ」


「なら分かるだろ」


ガルドは机を指で叩く。


「下手に突っつけば政治問題だ」


「最悪、国際手配まで行くぞ」


普通ならそこで躊躇する。


だが。


ミサは少し考えた後。


「ああ」


何かを思い出したように手を叩いた。


「そういえば私の手配書、まだ残っていましたね」


ガルドが固まった。


「……何?」


「勇者時代のです」


ミサは何でもないことのように答える。


「魔王を倒した後、色々ありましたから」


「色々で済ますな」


即座にツッコミが飛ぶ。


ミサは首を傾げた。


「確か国を三つほど敵に回しましたっけ?」


「っけ?じゃねぇよ!」


ガルドは頭を抱えた。


「何でそんな奴が受付嬢やってんだ……」


心からの疑問だった。


ミサは営業スマイルを浮かべる。


「定時で帰れるからです」


「理由が軽い!」


ガルドの叫びが部屋に響く。


しかしミサは気にしない。


「なので今さら国際手配が増えても問題ありません」


「問題大有りだろ」


「既に出回っていますし」


「そういう話じゃねぇ!」


ガルドは盛大にため息を吐いた。


昔からそうだった。


この女は自分に向けられる危険に異様なほど無頓着だ。


「……好きにしろ」


結局それしか言えない。


止めても行く。


それが分かっているからだ。


「ただし」


ガルドが真面目な顔になる。


「生きて帰ってこい」


ミサは少しだけ目を丸くした。


そして。


いつもの営業スマイルを浮かべる。


「善処します」


「だからその返事が一番信用ならねぇんだよ」


ガルドのぼやきを背に。


ミサは部屋を後にした。


そのまま一度自宅へ戻る。


二階の部屋へ入り。


窓辺に置かれた二丁の銃を手に取る。


『フェンリル』


この世界には存在しない武器。


勇者だった頃から使い続けている相棒である。


予備弾倉。


必要な道具。


最低限の装備。


全て鞄へ詰め込む。


準備は数分で終わった。


肩に鞄を掛ける。


フェンリルを収納する。


「さて」


営業スマイルが消える。


代わりに浮かぶのは仕事の顔。


「まずは依頼主と話をしましょうか」


向かう先は領主館。


ギャンブルによる被害は既に無視できる段階を超えている。


そして今。


元Aランク冒険者にして元勇者である受付嬢が動き出そうとしていた。


この騒動の全容を聞くために。


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