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第二十四話 嫌な話

本日も晴天なり。


空は青く。


風は穏やか。


ここ数日、大きな事件も無く、冒険者ギルドも平和だった。


依頼を受ける者。


報酬を受け取る者。


酒を飲む者。


いつも通りの光景である。


ミサも受付で営業スマイルを浮かべながら仕事をこなしていた。


そんな中。


ギルドの片隅に違和感を覚える。


「……?」


視線を向ける。


そこには朝っぱらから酒瓶を抱えて飲んでいる男がいた。


しかも見覚えがある。


「あの人……」


普段なら仕事をしているはずの男だった。


冒険者ではない。


荷運びを請け負う労働者である。


真面目な人間だったはずだ。


それが今は酒に溺れている。


ミサは少しだけ眉をひそめた。


だが。


それ以上は干渉しない。


酒を飲むのは個人の自由だ。


迷惑を掛けなければ問題ない。


そう思い仕事へ戻る。


しかし。


数時間後。


問題は起きた。


依頼を終えた冒険者たちがギルドへ戻ってきた時だった。


酔っ払いの男がぶつかったのである。


「どこ見て歩いてやがる!」


完全な言い掛かりだった。


冒険者も顔をしかめる。


「おいおい……」


「朝から飲み過ぎだろ」


周囲も苦笑していた。


だが。


酔っ払いは止まらない。


「俺を馬鹿にしてんのか!」


机を叩く。


酒瓶が転がる。


空気が少しずつ悪くなっていく。


冒険者も不機嫌そうに眉をひそめた。


「いい加減にしろ」


「酔ってるからって何でも許されると思うな」


周囲も険しい顔になる。


最悪の場合。


殴り合いに発展する。


冒険者同士の喧嘩ならまだいい。


だが武器が出れば話は別だ。


場合によっては死人が出る。


だからこそ。


受付嬢の仕事には仲裁も含まれる。


ミサは席を立った。


「はいはい」


営業スマイル。


「そこまでにしましょう」


二人の間に割って入る。


冒険者も事情を察し、一歩引いた。


しかし。


酔っ払いは違った。


「うるせぇ!!」


腰の剣を引き抜いた。


ギルド内が凍り付く。


周囲から悲鳴にも似た声が飛ぶ。


「ヤバい!」


「おい止めろ!」


「何やってんだ!」


だが。


ミサは一切動じない。


抜かれた剣を見ても表情一つ変わらない。


次の瞬間。


男の腕を掴んだ。


そして。


ギリッ。


「ぎゃあああああああ!!」


腕が捻り上げられる。


剣が床へ落ちた。


男は膝をつく。


泣きそうな顔になっていた。


ミサはそのまま男を床へ押さえ付ける。


「はい、確保」


営業スマイルのままだった。


そして近くの冒険者へ視線を向ける。


「そこの君」


「はい!」


「その剣を手の届かない所へお願いできる?」


「あ、はい!」


即答だった。


冒険者は慌てて剣を回収する。


男は完全に取り押さえられていた。


誰も助けようとは思わない。


むしろ当然の結果だった。


数分後。


ギルドの応接室。


事情聴取が始まった。


男は泣きながら話し始める。


「終わったんだ……」


「俺はもう終わりなんだよ……」


ミサは紙に記録しながら尋ねる。


「何があったんですか?」


男は顔を覆った。


震える声で答える。


「ギャンブルだ……」


部屋にいたガルドが眉をひそめる。


「ギャンブル?」


「ああ……」


男は力なく頷く。


「隣町で流行り始めたんだ……」


「誰でも簡単に金持ちになれるって……」


最初は少額だった。


勝った。


また勝った。


もっと賭けた。


さらに勝った。


気付けば引き返せなくなっていた。


「次も勝てると思ったんだ……」


男は泣きながら語る。


「でも負けた……」


「取り返そうと思って……」


「また負けた……」


そして。


借金をした。


それも一度ではない。


何度も。


何度も。


何度も。


「気付いた時には……」


男の肩が震える。


「返せない額になってた……」


部屋が静かになる。


ミサはペンを止めた。


そして。


珍しく嫌そうな顔をした。


「なるほど」


短く呟く。


男は泣き続ける。


「家も終わりだ……」


「仕事しても返せない……」


「どうすればいいんだよ……」


誰も答えない。


答えられない。


ガルドも腕を組んだまま黙っていた。


そして。


ミサは深くため息を吐く。


「……嫌な話ですね」


それは心からの言葉だった。


魔物討伐ならまだいい。


盗賊退治もいい。


相手が見える。


殴れば終わる。


だが。


借金やギャンブルは違う。


剣では解決できない。


だからこそ。


ミサは嫌そうな顔をしていた。


「隣町ですか……」


小さく呟く。


その目は少しだけ鋭くなっていた。


何となくだが。


この話はまだ終わらない。


そんな予感がしていた。


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