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第十七話 圧倒的な力の差

「始め!」


教官の合図と同時に。


十人を超える騎士たちが一斉に踏み込んだ。


訓練場の土が舞う。


怒りに満ちた突撃。


だが。


美咲は動かない。


木の枝を肩に担いだまま。


ただ立っていた。


「舐めるなぁっ!!」


先頭の騎士が木剣を振り下ろす。


全力。


手加減なし。


木剣は美咲の肩へ直撃した。


だが。


バキッ!!


折れた。


折れたのは木剣の方だった。


「なっ!?」


騎士が目を見開く。


美咲は首を傾げる。


「終わりですか?」


「な、何をした!?」


「何も」


本当に何もしていない。


ただ立っているだけだ。


次々と騎士たちが襲い掛かる。


胴。


腕。


脚。


首。


全て命中する。


だが。


ゴッ。


ガン。


ドゴッ。


響くのは鈍い音だけ。


まるで岩へ殴り掛かっているような感覚。


「なんだ……?」


「当たっているぞ……?」


「何故効かない!?」


騎士たちの顔色が変わる。


「全員で来ていいですよ」


美咲は欠伸混じりに言う。


その瞬間。


騎士たちは一斉に飛び掛かった。


十人以上。


四方八方からの攻撃。


普通の人間なら避けることすらできない。


だが。


美咲は動かない。


避けない。


防がない。


受ける。


ただそれだけ。


ガガガガガガッ!!


連続して攻撃が叩き込まれる。


だが。


結果は同じ。


効かない。


誰一人として。


美咲に傷一つ付けられない。


後方にいた騎士が叫ぶ。


「下がれ!」


そして武器を持ち替える。


モーニングスター。


鉄球付きの重量武器。


訓練用とはいえ危険な代物だ。


教官が顔色を変える。


「待て!」


だが遅い。


怒りに任せて振り抜かれる。


鉄球が唸りを上げる。


狙いは顔面。


直撃。


ガァァン!!


訓練場に重い音が響いた。


エリナが悲鳴を上げる。


「ミサさん!」


土煙が舞う。


騎士たちも息を呑む。


そして。


煙が晴れる。


そこにいたのは。


無傷の美咲だった。


頬一つ切れていない。


髪すら乱れていない。


「何なんだぁ……今の攻撃は?」


逆に美咲が聞いた。


心底不思議そうだった。


モーニングスターを振った騎士が後退る。


手が震えていた。


あり得ない。


あり得るはずがない。


人間の硬さではない。


まるで。


巨大な岩に武器を叩き付けたような感覚だった。


「ば、化け物……」


誰かが呟く。


訓練場が静まり返る。


美咲は少しだけ眉をひそめた。


「私が化け物?」


その声に騎士たちが硬直する。


怒った。


そう思った。


だが。


美咲はため息を吐いただけだった。


「いや、違う」


木の枝を肩へ担ぎ直す。


最後まで。


一歩たりとも動かない。


「私は受付嬢だぁ」


堂々と言い切る。


誰も反論できなかった。


受付嬢の定義が壊れた瞬間だった。


騎士たちは武器を構えたまま動けない。


攻撃が効かない。


防御もされない。


避けてももらえない。


相手はただ立っているだけ。


それなのに。


何一つ通じない。


初めてだった。


実力差というものを。


ここまで明確に突き付けられたのは。


やがて教官が口を開く。


「一つ聞いてもいいか」


「どうぞ」


「何故だ」


教官が真っ直ぐ美咲を見る。


「何故、我々の攻撃が通らない」


騎士たちも答えを待っていた。


美咲は少し考え。


やがてため息を吐く。


「逆に聞くけど」


「?」


「あんたたち、『魔装』は使えます?」


沈黙。


騎士たちが顔を見合わせる。


聞き慣れない言葉だった。


「魔装……?」


「知らないんですか」


今度は美咲が驚く番だった。


エリナも首を傾げている。


「初めて聞きましたわ」


「そうですか」


美咲は納得したように頷いた。


「魔装というのは簡単に言えば魔力の鎧です」


美咲は自分の腕を軽く叩く。


コン、と鈍い音が鳴った。


「魔力で作る鎧」


騎士たちが目を見開く。


「鎧……?」


「はい」


「そんな魔法聞いたことがないぞ」


「魔法じゃないです」


美咲は首を振る。


「技術です」


その一言に。


教官の表情が真剣になる。


「全身を魔力で覆う」


「それだけです」


「それだけ?」


「それだけです」


だが。


その"それだけ"が難しい。


「魔装が完成すると」


美咲は自分の肩を叩く。


「こうなります」


コン。


まるで金属のような音。


「皆さんの攻撃が効かなかった理由です」


騎士たちが絶句する。


「ちなみに」


美咲が指を立てる。


「魔装を破る方法は二つ」


全員が聞き入る。


「一つ。相手が纏っている魔力以上の攻撃を叩き込む」


誰も言葉を発しない。


「二つ。自分も魔装を使って攻撃する」


沈黙。


そして。


騎士たちは理解した。


先程から自分たちが何を相手にしていたのか。


「つまり……」


若い騎士が呟く。


「我々の攻撃は最初から通らなかった?」


「はい」


即答だった。


心が折れる音がした。


「そもそも」


美咲は木の枝を肩に担ぐ。


「魔装も使えない状態で私に勝とうとしていたんですか?」


悪気はない。


本当にない。


だが。


騎士たちには致命傷だった。


数人が膝を付く。


教官まで遠い目をしていた。


「ちなみに」


美咲が思い出したように言う。


「これでもかなり薄くしてます」


全員が固まった。


「……はい?」


「普段の十分の一くらいですね」


訓練場が静まり返る。


エリナだけが目を輝かせていた。


「すごいですわ!」


「そうですか?」


「凄いですわ!」


すると。


教官が真剣な顔で尋ねた。


「その魔装とやらは」


「はい」


「防御だけなのか?」


美咲は首を傾げる。


「まさか」


その反応に。


騎士たちは嫌な予感を覚えた。


「攻撃にも使えますよ」


美咲はそう言うと。


手に持っていた木の枝を見た。


その辺で拾っただけの細い枝。


本来なら子供の玩具にもならない。


「例えば」


美咲は近くに置かれていた訓練用甲冑を見る。


木製の人形へ装着された訓練標的。


そのさらに後ろには大木。


さらにその先には領主館の城壁。


「こんな感じです」


美咲は木の枝を軽く構える。


次の瞬間。


木の枝が淡く輝いた。


透明な炎を纏ったように。


「魔装付与」


ブンッ!!


木の枝が投げられる。


ただ投げただけ。


そう見えた。


だが。


ドガァァァン!!


轟音が訓練場を揺らした。


訓練用甲冑。


そこには拳大の穴が開いていた。


「なっ……!?」


騎士たちが絶句する。


だが。


終わっていなかった。


木の枝は甲冑を貫通。


後方の大木へ突き刺さり。


さらに。


貫通。


木屑が爆発する。


「うそだろ……」


誰かが呟く。


そして。


木の枝はなおも止まらない。


最後に。


領主館を守る分厚い石造りの城壁へ到達した。


ドゴォン!!


鈍い音が響く。


土煙が舞う。


静寂。


煙が晴れる。


そこには。


木の枝が半分以上埋まった城壁があった。


まるで巨大な弩砲でも撃ち込まれたかのようだった。


訓練場が凍り付く。


誰も声を出せない。


美咲だけが平然としていた。


「こんな感じです」


まるで仕事の説明でもするような口調だった。


エリナが震える声で言う。


「木の枝ですわよね……?」


「木の枝ですね」


「普通の……?」


「普通の木の枝です」


騎士たちは城壁を見る。


甲冑を見る。


大木を見る。


そして美咲を見る。


理解した。


先程の勝負。


あれは手加減どころではない。


本気でやっていたら。


自分たちは木剣を振る前に終わっていた。


教官が乾いた笑みを浮かべる。


「なるほど……」


そして深くため息を吐いた。


「確かにE級程度では話にならんな」


初めて。


教官は美咲の評価に反論できなかった。


一方、美咲はそんな空気も気にせず、


「終わったなら帰っていいですか?」


本気でそれしか考えていなかった。


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― 新着の感想 ―
伝説の超サイヤ人であったか。
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