表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/78

第十六話 騎士たちの実力

「こちらが食堂ですわ!」


「広いですね」


「百人くらいなら入れますの!」


「そんなに必要ですか?」


「たぶん必要なんですの!」


適当だった。


領主館見学が始まってから一時間ほど。


美咲は半ば強制的に館内を案内されていた。


応接室。


客間。


食堂。


庭園。


書庫。


執務室前。


使用人用通路。


果ては地下倉庫まで見せられた。


完全に観光客扱いである。


「どうですの!」


エリナが胸を張る。


「立派ですね」


「もっと褒めてもいいんですのよ?」


「立派ですね」


「語彙が少ないですわ!」


事実だった。


美咲は別に建物に興味がない。


住めればいい派である。


むしろ。


(うちの家の方が落ち着きますね)


そんなことを考えていた。


そして。


最後に辿り着いた場所。


そこは領主館の裏手だった。


広い訓練場。


木製の人形。


剣戟の音。


掛け声。


汗を流す騎士たち。


「ここが騎士訓練所ですわ!」


エリナが誇らしげに言う。


なるほど。


最後にここを持ってきた理由が分かった。


護衛騎士の話へ繋げる気だ。


「どうですの?」


「どう、と言われましても」


「強そうでしょう?」


美咲は騎士たちを見る。


そして。


右手で輪を作った。


親指と人差し指で小さな丸を作る。


片目を閉じる。


「何をしていますの?」


「評価です」


「評価?」


「はい」


騎士たちは気付いていない。


訓練に集中している。


美咲は一人目を見る。


剣を振る若い騎士。


数秒。


「五点」


「低い!?」


エリナが叫んだ。


周囲の騎士たちが振り向く。


美咲は気にしない。


次を見る。


盾役らしい大柄な騎士。


「八点」


「少し上がりましたわ!」


「頑丈そうです」


さらに次。


中堅らしい騎士。


動きは悪くない。


「十二点」


「おお!」


エリナが嬉しそうに声を上げる。


だが。


美咲の顔は微妙だった。


「最高点です」


「微妙ですわ!」


騎士たちも気になってきたらしい。


訓練を止めてこちらを見ている。


「何点満点ですの?」


エリナが聞く。


「百点です」


沈黙。


訓練場が静まり返った。


騎士たちの顔が引きつる。


エリナも固まった。


「ひゃ、百点?」


「はい」


「最高が十二点?」


「はい」


「厳しすぎませんこと!?」


「そうですか?」


美咲は首を傾げる。


本気で分からない。


一人の壮年騎士が近付いてきた。


訓練教官だろう。


「失礼ですが」


「はい」


「我々の評価が低い理由を伺っても?」


丁寧だった。


怒ってはいない。


純粋な疑問らしい。


美咲は正直に答えた。


「弱いからです」


騎士たちが固まった。


エリナが頭を抱える。


「ミサさん!」


「何でしょう」


「もう少し言い方があると思いますの!」


「事実ですし」


「事実でもですわ!」


美咲は再び訓練場を見る。


「皆さん真面目です」


「ありがとうございます」


「基礎もできています」


「はい」


「統率も取れています」


「はい」


「ですが」


美咲は肩をすくめた。


「冒険者で言うならE級ですね」


騎士たちが固まる。


「E級……」


「最低ではありません」


美咲は補足した。


「F級より上です」


「慰めになってませんわ!」


エリナが突っ込む。


「ワイバーン相手だと半数は死にますね」


騎士たちが青ざめる。


「オーガなら?」


と教官。


「三割」


「上がった!」


エリナが喜ぶ。


何故だろう。


美咲はさらに追い打ちをかけた。


「まぁ……田舎の冒険者の方が強いですね」


静寂。


訓練場が止まった。


「……え?」


エリナが聞き返す。


「ラウルの冒険者の方が強いですよ」


「本当ですの?」


「昼間から酒飲んでる人たちですわよ!?」


「強いですよ」


即答だった。


「あの人たち馬鹿ですけど」


「酷い言い方ですわ!」


「でも強いです」


その一言で。


騎士たちの堪忍袋の緒が切れた。


若い騎士の一人が前へ出る。


「失礼ですが」


「はい」


「先程から黙って聞いていれば好き放題言ってくださいますね」


怒っていた。


当然だった。


「我々にも誇りがあります」


騎士が剣の柄へ手を置く。


「部外者にそこまで言われて黙っているほど安くありません」


美咲は空を見上げた。


帰りたい。


本気で帰りたい。


「ですので」


嫌な予感。


「決闘を申し込みます」


やっぱりだった。


「嫌です」


即答。


「逃げるんですか?」


「帰りたいだけです」


「同じことです!」


違うと思う。


だが誰も聞いてくれない。


エリナも完全に観戦モードだった。


「受けてくださいませ!」


「嫌です」


「受けてくださいませ!」


「嫌です」


「受けてくださいませ!」


「嫌です」


数分後。


美咲は諦めた。


どうやら今日は逃げられないらしい。


「分かりました」


騎士たちが笑う。


ようやく受けると思ったのだろう。


だが。


美咲は続けた。


「ただし条件があります」


「条件?」


「一人ずつは面倒です」


沈黙。


「はい?」


教官が聞き返した。


「だから」


美咲は面倒臭そうに言う。


「全員まとめて来てください」


訓練場が静まり返った。


エリナが固まる。


騎士たちも固まる。


「……全員?」


「はい」


「我々全員を相手にすると?」


「その方が早いです」


当然のように言った。


空気が変わった。


騎士たちの目付きが変わる。


怒りだった。


当然である。


一対一ならまだしも。


全員まとめてなど。


完全な侮辱だった。


「ふざけているのか?」


「別に」


「我々を舐めているのか?」


「少し」


即答だった。


騎士たちの額に青筋が浮く。


エリナが目を輝かせている。


完全に楽しんでいた。


美咲はさらに追い打ちをかける。


「正直」


騎士たちを見る。


「一人でも全員でも結果は同じです」


沈黙。


「なんだと?」


「聞こえませんでした?」


美咲は首を傾げる。


「結果は同じです」


さらに青筋が増えた。


「お前!」


「なんです?」


「言わせておけば!」


「事実ですし」


「事実かどうかはやってみないと分からん!」


「ではやりましょう」


即答だった。


騎士たちが一斉に剣を抜く。


教官が止めようとする。


だが。


美咲はまだ続ける。


「安心してください」


「何がだ!」


「怪我はさせません」


完全に煽りだった。


騎士たちの怒りは頂点に達した。


もはや誰も止まらない。


教官すら諦めた顔をしている。


「いいだろう」


教官が言う。


「全員で相手をする」


「助かります」


「後悔するなよ」


「しません」


即答。


訓練場中央。


美咲が立つ。


向かい側には騎士たち。


十人以上。


木剣を構え、一斉に並ぶ。


普通なら圧倒的に不利な状況。


だが。


美咲は辺りを見回した。


そして。


地面に落ちていた木の枝を一本拾う。


騎士たちが笑う。


「その枝で戦う気か?」


「はい」


「折れるぞ」


「でしょうね」


平然としていた。


エリナが興奮気味に身を乗り出す。


「始まりますわ!」


完全にお祭り気分だった。


教官が前へ出る。


「では模擬戦を開始する」


訓練場が静まり返る。


騎士たちが構える。


美咲は木の枝を肩に担ぐ。


そして。


面倒臭そうに一言。


「全員同時でいいですよ」


騎士たちの額に青筋が浮いた。


「始め!」


その瞬間。


十人を超える騎士たちが一斉に踏み込んだ。


そして。


美咲は小さくため息を吐いた。


「だから帰りたかったんですよ……」


次の瞬間。


元勇者が動いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ