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第66話 境界を越える

白い隙間の奥へ進む。


影たちを突き抜けたのに、まだ体に冷たさが残っていた。

見えない指で触られた感じが、体に残っている。


白い隙間は曲がりくねって続いていく。

乾いた壁。骨みたいな白さ。

奥で、低く脈打つ音がする。


後ろから、シャッ...シャッと音がした。

振り返ると、さっきの影たちが、追って来ている!

歩くのではなくて、床を滑るように近づいてくる。

しかもなんか増えてる...


「追って来るよ!」俺は声を上げた


トールが立ち止まった。

ミョルニルを握り、通路の壁を横から殴る。

ゴッ!!


白い壁が割れ、太い根の塊が崩れた。

通路の後ろ半分が埋まる。

影たちはその向こうで揺れている。

完全には止まらないだろうが、しばらくは足止めできたようだ。


「行くぞ」


また走る。

白い隙間はやがて少し広くなり、急に視界が開けた。


開けた場所に出た。円形の広場のように広い。


天井は高く、上の方は薄暗くてよく見えない。

白い根が何本も垂れ、途中で壁に絡まり、円筒みたいな空間を作っている。


広場の中央は凹んでいて、池になっている。

池の真ん中から、青白い水がゆらゆらと湧いている。

水面は静かではなく、ゆっくりと回っている。

冷たい匂い。井戸の底みたいな匂いだ。


対岸に穴がある。

トンネルになって、奥へ続いているらしい。

そこへ行くには、池の左右どちらかの細い土手道を通るしかない。


土手の外側には、白い根が絡み合って高く積み上がり、壁みたいにそびえている。


右側の土手道は、白い根がはびこり過ぎて道ではなくて、ほとんで絶壁になっていて、そのまま池へと落ちている。

これは通れない...


左側の土手道は通れる幅はあるが、壁の一部が、黒く腐って割れかけていて、

黒いドロドロした液体が、そこから垂れている。

白い根を汚しながら流れ、土手の端をじわじわ這っている。

腐った臭い。鼻の奥が痛い。


ロキが池を見た。

「境目の途中まで来たな」

「途中?」レスクヴァが顔をしかめる

「まだ奥があるってことさ」


突然、メキメキメキと嫌な音が響いた。

左側の土手の白い根の壁が黒く割れた所がグニャリと裂けた。


そして、割れ目の中から、白っぽい手が出る。

次に頭。薄い黄色のような白い肌。

濡れてはいないのにヌラヌラと鈍く光っている。

ヘラジカのような長い顔。黒い点のような小さな目。


そいつは割れ目から這い出ると、細い土手道の上に手をつき、こっちを見た。

「うわ〜っ」レスクヴァが俺の後ろに回る


さらにもう一体、その後ろから、また一体。

「行かせたくないのか」シャールヴィが舌打ちした

後ろでは、崩した通路の向こうから影たちも来ている。


前は白い怪物。

後ろは境の影。


俺の左に雪乃が立って耐えている。レスクヴァは俺の腕にしがみついている。


トールが左の土手道を見た。

怪物は三体。後ろの影はまだ少し距離がある。


「左を抜ける」そう言って、ズイズイと左の土手道を行く


白い怪物が飛びかかって来た。

トールがミョルニルの柄で横からぶん殴る。

ドッ!!

怪物が白い根の壁に叩きつけられる。

壁の黒い割れ目から、ドロドロが飛び散る。

ひどい腐った臭い。


黒い液が滲んでいる割れ目を見て、トールが踏み込み、ミョルニルを振るう。

黒く腐った部分に槌がめり込む。

白い根の壁が裂け、中から黒い液体がドロドロと噴き出し土手道に流れる


白い怪物たちが止まる。

一体が口を開けたまま、動きが固まる。

そして、体が崩れた。

白い泥みたいになって土手へと落ちる。


「効いてる!」レスクヴァが叫びピョンピョン跳ねる


トールがもう一撃。

ドゴーーーッ!!

腐った白い根の壁が崩れ、黒い液が土手を流れ落ちていく。

怪物たちは次々に崩れた。


「今だ、行こう!」シャールヴィが走り出した


右は絶壁、下は池。

青白い水がゆっくり回り、時々ボコリと泡が上がる。

落ちたら助からない気がする。


レスクヴァが滑りかけた。

シャールヴィが腕をつかんで引き上げる。

「前見ろ!」

「ありがと!」


後ろでは影たちが広場に出てきていた。

スルスルと土手道に進んで来る。


トールが最後尾で振り返り、影の一つを蹴り飛ばす。

影はよろめき、池へ落ちた。


青白い水面がぼこんと膨れる。

影はそのまま沈み、浮いて来ない。


「なるほどな」ロキが目を細めた


土手道の先の穴まで来た。

そこへ飛び込む。

広く短いトンネル。今度は白くない。

ヌチャヌチャと湿っている。

壁は灰色がかった根と土。

生ぬるい風が吹く。

草と泥の匂いが混じっている。


後ろから低い音が轟く。

ゴォゴゴゴゴゴ......


振り返ると、白い広場の入口の、

あの白い隙間の向こう側に、ヨルムンガンドの顔が見えた。

広場の入口まで来ている。

だが、それ以上は入れないでいる。

苦しそうに入口に頭を押しつける。


「来られないのか」俺はつぶやいた

「ここから先は別だ」ロキが答えた

珍しく、笑っていない。


トールが前を向く。

「進むぞ」


トンネルを抜ける。


空気が変わった。

白い隙間の冷たさとは違う。湿っている。ぬるい。草と泥と、腐った木の匂いが混じっていた。


出口が見える。


そこは森の地面ではなかった。

低い崖の中腹に開いた横穴だったのだ。

灰色の根と、黒く湿った土がむき出しになった崩れ斜面。その途中に、俺たちは吐き出された。


「うわっ」


足を踏み出した途端、土がずるっと崩れた。

俺はあわてて壁の根に手をつく。ぬるりと湿っている。雪乃もよろめき、俺の肩をつかんだ。


トールはそのまま斜面を降りる。重い体なのに滑らない。

シャールヴィとレスクヴァも続いた。二人とも足運びが速い。こういう悪い足場に慣れている。


俺と雪乃も、根や土の出っ張りに足をかけながら降りた。

土が靴の裏にへばりつく。湿って重い。


斜面の下には、ぬかるんだ小さな空き地があった。


その向こう、黒ずんだ木々の間に、人影が並んでいる。


男たちだ。

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